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第41話 蹂躙

どれだけ走り回ったのか。汗がぽたりと床に落ちる。その時、ずるずると何かを引きずる音がした。乾いた音じゃない。粘膜の上を何かが這っている。リュナはすぐに化け物が来たのだと悟った。ずるずるという音は次第に大きくなり、足首に巻きついたと思った次の瞬間には引きずり倒されていた。 「……っ!」 リュナの足をとったのは、肉厚の大きな化け物だった。自分が飼い慣らしていたアイツよりも体が大きい。顔の横を、少し細めの触手が蠢いていく。落ちた汗を舐め取ろうと必死になっているようだった。 血液が、血と肉が彼らの好物だと思っていた。しかしそれだけでは滅多に人が来ない地下で生きられるわけが無いし、そこでじっと大人しくしていられるはずもない。 もし彼らの主食が、生物の体液だとしたら。普段は動かずじっとしているが、獲物をとる時だけ素早く動くとしたら。化け物が即座にセスの手を切り落としたあの瞬間を思い浮かべる。 逃げるという選択肢はもうなかった。 どう考えても不可能だ。少し体液を啜られるくらいなんてことない。むしろそれをきっかけにして飼い慣らすことができるかもしれない。 触手にまさぐられるのも、別に大したことじゃない。それが口であれ、性器であれ。先の経験から本気でそう思っていた。 目を凝らして相手を見つめる。あの化け物の2倍は大きく見えた。自分が飼っていたアイツは子どもだったのかもしれない。だとしたらこいつは親なのだろうか。そもそも、彼らの生態系に親子なんて関係があるのかも分からない。それに色が違った。アイツは赤黒い肉塊のようだったが、こっちは毒々しい紫がかった緑色だ。 この化け物には、どんな名前が似合うだろう。 腹が膨れたら話を聞いてくれるだろうか。そう思ってリュナは力を抜いた。これ幸いとばかりに手首を上で絡め取られ、体中をまさぐられる。 「ん……っ」 下を上手く脱がせないようだった。おそらく知能はそれほど高くない。服の上から侵入できないのを不思議がって。何度も後ろに触手をぐりぐりと擦り付けていた。 自分をすすんで餌にしたいなら、こちらから脱いだ方がいい。しかし拘束されている上に、体が上手く動かず腰を上げることすら難しかった。 ――――とんだ淫乱。そう言われたことが蘇る。この場に奴らはいないのに。求めてくる化け物に応える方がよほど大事なのに。 「あっ……」 固まっている間に向こうが痺れを切らした。引き裂くかのように早急に乱暴に下を引きずり下ろす。布地が性器に思いっきり擦れた。痛いのに気持ちいい感覚に呻く。 「あ……ん、んん……っ」 くちゅくちゅと音を立てて扱いても、僅かな雫が先端をぷくりと膨らますだけ。その反応では足りなかったのだろう。また一方の触手が吐息を漏らす口に目がけて伸びてきた。 「んぅっ……」 無遠慮に突っ込まれる。かつても似たことがあったが、太さがあの時の比じゃなかった。喉奥まで蹂躙され、えづきたいのにそれもできず涙が滲む。苦しい。息がしづらい。そしてもうひとつ思うことあった。口に入る直前の、触手の形状を思い出す。先端がぱっくりと割れ、その中には、小さな棘がびっしりと並んでいた。もし、それが性器にしゃぶりついてきたら。考えるのとほぼ同時に、想像を絶した刺激かそこに与えられた 「ん……んんっ、んんんっ……!」 思わず背を弓なりにし腰を浮かす。まだ思いっきり喘げたら気は紛れたのだろうか。下から痛いくらいに込み上げてくる快楽の逃げ場がどこにもない。身を捩ってもすぐに触手に絡まれ動けなくなった。 「ん、んん……ぅ……っ」 ある程度口内を蹂躙した。唾液も啜った。しかしそれ以上を求めようとも、目の前の餌は奇妙な声をあげるし歯を立てる。だから化け物は、警戒して別の場所から体液をと考えたのだろう。 触手は、肌の表面に分泌液を塗りつけながら動き回る。首筋。胸。臍。向こうも反応を見ているようで、体をびくつかせたり捩らせたりすると、何かを分泌するのではと余計に這い回る。棘で刺激しようとする。 「やっ……あ、あぁっ……」 胸の突起に触れ、臍を穴と勘違いし潜り込もうとする。そのうちに化け物も気づいたらしい。ここを刺激するとより体液を分泌するらしい。それからはもう遠慮がなくなっていった。 唯一無二じゃない。ただ入り込める穴が欲しいだけ。なのに抵抗なく受け入れてしまっているのは、絡みつく様が必死だったからか。久々の獲物を決して逃がすまいと、体中をまさぐるその様が、縋りついてくるようにすら思えたからか。 「あ、んっ……ぁ……あ……っ」 リュナが抵抗を見せなくなったと知って、動きが活発になる。化け物も喜んでくれている。 体はもう触れられるだけで痺れたようにびくつくことしかできない。与えられる刺激が甘いのか痛いのかも分からない。それでも向こうはまだ満腹になっていないらしい。壊れたようにだらだらと液体か零れっぱなしになっている性器。化け物はそこに目をつけた。小さな穴に潜り込めば、体液をもっと啜れるのではないかと。 「やっ、そこは……っ、いっ……ぁ……」 塞がれて、吐精できなくなって苦しい。なのにいつも後ろから弄っていた場所を直接触れられると、体は正直に跳ねた。 「ぁ……っ、は……ぁ……っ」 声も満足にだせなくなる。快楽を逃がすように叫ぶこともなくなる。ただ口を開けてそこから息と唾液が漏れるだけだ。 もう出ないと思えるまで体液を吸い尽くされた。それでもぬるい粘液が肌を汚していく。その度に体は熱くなり、内側から込み上げるものもあるのに、出すものもなければ出せる場所も塞がれた。もう離してくれと腰を揺すると、触手がますます奥に入って喘ぐ羽目になる。 触手は何かを探しているようだった。体液をすすりきったのなら、次は何を……今度こそ本当に肉を食らうのではないか。そう考えると恐ろしいはずなのに、体は快楽に支配されたままだ。むしろこの生き物に食される時は、どれほど甘く痺れる感覚があるのだろう。本能なのか、塗りたくられた粘液に興奮作用があったのか、思考はあらぬ方向へと散っていく。 「あ、んっ……やぁ……っ」 ここまで来たら、もう挿入できる箇所は後ろしかない。やがて化け物がそこを探り当てる。中に入ろうと取り出してきた触手は、今までのどれより大きく太かった。中に何が入っているのか。でこぼことしているそれはもはや凶器にも見えた。 「むり……っ、そんなの、入るわけな……」 それが、理性が残した最後の言葉だった。 「あぁっ」 粘液が痺れさせているのか、痛みはなかった。なのに感覚だけはしっかりある。快楽が刻みつけられていく。ずっと苦しい。避ける。破れる。壊れる。 異物を追い出そうと後孔が、内蔵の粘膜が収縮する。しかしそれは向こうにとってはより奥へと誘っている動きに思えたらしい。 「あ、んっ、や、ぁっ」 触手は奥へ奥へと進んでいく。明らかに行き止まりだと思うそこにたどり着いてもなお進もうとする。 「いたいっ、や……っ、も、やめっ………あっ、ああっ」 なのに自分の感じる痛みとは裏腹に体は気持ちいいと思っているのか。ゆっくりとのみこんでいく。やがて広い場所を見つけた。 「や、あ、あついっ、もう、やあぁっ」 中に出されている。大量の粘液で滑るように触手から出てくる卵を産みつけられている。ぼこぼことした感触が内膜に触れることすらきもちよかった。 「は、ぁ……っ、んっ、ぁ……」 息も絶え絶えになってずるりと壁にもたれかかった。数回余韻で達した。喘いで腹をへこませる度に後ろから粘ついた液体が溢れてくる。触手は卵を産み付けてすぐ、気づけば足元で枯れ果てていた。解放されたのにしばらくの間動けなかった。他に化け物の気配はもうなかった。

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