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第42話 胎の中に

苦しさと快感でどうにかなりそうな瞬間の連続は、地獄だった。しかし時間はそれほど経っていなかったらしい。 倦怠感に包まれた体を引きずり、人目を避けて部屋に戻ったのは、夕方の夕食前。礼拝を終え、庭仕事も終えた者たちの集団が中庭にいる。そこでもヴィオがリーダーとして仕切り、何かの指示をしているようだ。彼らの笑い声に耳を塞ぎながら、リュナはゆっくりとシーツに潜る。 柔らかいシーツの中で、両手でそっと腹を抑えるようにして丸まった。胎に何かを産みつけられたことは、自分だけが知っている。あの時は腹も膨らみ苦しくて仕方なかったが、今となってはそこも平らになっていた。ぱっと見ただけでは、何かを孕んでいるなんて分からないはずだ。 まだ下半身は甘く痺れるように気だるい。その中でもやはり胎が特に熱を持っている気がした。何かが蠢いているようにはえ思う。いや、実際に蠢いているのかもしれない。さすると脈打つような感覚を覚えた。不思議とそれを不気味には思わなかった。 「……僕の、あかちゃん」 呟いてからはっとする。無意識の言葉なのに腑に落ちたからだ。ここには何かが宿っている。そしてその存在は、紛れもなく自分にとって唯一無二のものなのだ。 「ただいま。よく眠れた?」 ヴィオが部屋に戻ってくる。泣き腫らした目を見られたくない。枯らした声を聞かれたくない。だからリュナはシーツを被って寝ている振りをした。彼の方は気づいているのかいないのか。薄い布一枚を隔てながらも「おやすみ」と頭に軽いキスを残して去っていく。 いつもなら子ども相手のその仕草に苛立ちを覚えていたはずだ。しかしもう、今となってはどうでもよかった。胎に宿った何かが、きっとこの世界に自分が存在していい理由になる。リュナは根拠もなくそう信じている。内側が脈打ち、中にいる何かも自分の気持ちに応えたような気がした。

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