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第43話 名づけ
腹は日に日に膨らんでいった。しかもひとつの丸みある腹になるわけでもなく、外から撫でれば複数の凹凸が腹を押し上げているとわかる。これはきっと卵なんだろう。産まれてくるのは人間ではなく化け物なのだが、そんなことももうどうでもよかった。
ベッドから出たら確実に知られてしまう。だから人前では具合の悪い振りをすることにした。といっても、今のリュナに会いに来る人間はヴィオしかいないし、もともと精神的に不安定だったところで、体が動かなくなっても不思議じゃない。
それでも知られたらどうしようという不安は消えない。しかし考えようとしても頭が上手く回らない。必要なエネルギーは全部卵にいっているのだろうか。それにしては食欲が増さないのが不思議だった
相変わらずシーツに包まっていると、目の前に匙が出される。
「これくらいなら食べられる?」
リゾットだった。細かく刻んだ肉も入っていて塩気があるはずなのに、口に含んでみてもあまり味はしない。緩慢な動作で運ばれるままに口にする。世話を焼けるのが嬉しいのか、ヴィオはずっと笑っている。
「最近ぼーっとしてることが多いね。何考えてるの?」
「……名前」
単語だけを口走れば、ヴィオは不思議そうに首を傾げる。
「……化け物につける、名前」
考えてあげられなかったあの化け物と、自分に卵を産みつけて朽ち果ててしまった二体の分まで、胎内に宿った生命につけられたらと思う。
端的な言葉で、ヴィオは複雑そうな顔になった。目は笑ってないのに口元ははにかんでいる。
「そんなこと、気にしなくていいのに」
どうして彼がそう断言するのか、リュナには分からない。
「化け物はきっと、どんな名前だって、リュナに呼ばれるのが嬉しいはずだよ」
まるで少年が母を恋しがるような声音だった。
「おれの名前も呼んでくれる?」
「……呼ばない」
ヴィオは「えー」と不満げに頬を膨らませる。リュナに気力がないというのもあるが、珍しく穏やかな時間だったように思う。
全部、男の自分を母という存在にしてくれた卵たちのおかげだ。ヴィオが出ていったのを見計らって、再度そっと撫でる。リュナは早く会える日を楽しみにしながら、また名前を考え始めた。
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