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第50話 役立たず

それから無視されることはなくなった。むしろ忙しいはずの姉から話しかけてくる日も増えた。 「うわ、何これ」 例えばその日は、期末テストが返された日だった。姉は静和の鞄の蓋を開け、逆さにし、玄関で中身をぶちまけた。 出てきたのはテストの解答用紙。もちろん点数は低い。平均点を大幅に下回っているが、ギリギリ赤点ではない。そんな、確実に悪いけど目立ちもしない点数だった。 それでも静和は恥ずかしく思って、鞄の底に隠していた。誰も静和の点数になんか興味を持たないはずだから、しまい込んでおけば恥は自分の記憶の中だけにある。 なのに、姉が見つけてしまった。 「やめて……」 「は?なんで命令してんの?あんたが言ったんじゃん。自分を見ててほしいって。その方が嬉しいんじゃないの?なのになんでやめてほしいとか言うの?」 「は、恥ずかしいから……」 「私の方が恥ずかしいんだけど?姉弟のくせに、こんなに点数の差があるんだから」 姉は仕事で学校に来られる日の方が少なかった。なのにテストの点数はいつも、天と地ほどの差があった。事実を口にされたことに加え、畳みかけるように喋られては、静和は何も言い返せなくなる。 「ねぇ、こんな時はなんて言うんだっけ?」 そして、言い返せなくなった先で、壊れたように繰り返すべき言葉を、彼女は時間をかけて静和に教えこんだ。 「……僕のせいで、恥ずかしい思いをさせてごめんなさい」 「そうだね。お姉ちゃんにそんな思いをさせる自分のこと、他にはどう思ってる?」 「役立たず、です……」 覚え込まされた時、静和は一度だけ姉に聞いた。どうしてこんなことを言わせるのかと。こんな言葉、聞かされる方も嫌な気持ちになるんじゃないかと。 「そうそう。何も出来ない役たたず。じゃあ、なんでお母さんはあんたなんか産んだんだろうね?」 姉は答えた。本当のことを言わせてるだけ。静和の言葉を聞いてもなんとも思わないと。 「……僕は、お姉ちゃんのおまけで生まれてきただけです」 誰かを見下して嘲笑いたい時に、静和という存在がちょうどいいのだと。影が薄く、マイナスな行動しかしない。その存在が痛々しいから、下に見て罵っても、罪悪感すら覚えないのだと。 「僕は、お姉ちゃんがいなければ存在することも許されなかった、恥ずかしい存在です……」

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