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第59話 共同

応募の中から、企画は何作か選ばれた。そして若手社員の実力を試す場にしたいということで、何人かにプロジェクトのリーダーが任される。白羽の矢が立ったのは、梶原依央と、静和の書いた企画書だった。 「世界観はこれでいいんだけどさぁ……」 その話を、依央と自分は呼び出された小さな会議室で聞いていた。 「今どき単純なノベルゲーは流行らないから。心温まる交流とかないから。ミステリーかサスペンスかホラーか……とにかく続きが気になるっていう要素を入れて欲しいんだよね」 阿掛は静和の企画書を何度か机に軽く叩きつける。 「そうそう。ゼロ年代に流行ったエロゲみたいにしてもいいかもね。俺、ちょうど世代よ?歴史は繰り返すっていうし、そろそろリバイバルブームがくると踏んでるんだよね。で、リメイクラッシュにドカンと新作をリリース。よくない?あ、でも上からひとつ。男向け、女向けっていうのは局地的なヒットになっちゃうから。稼げないから。作るなら世界観を統一させつつ、男女両方に向けて二本だね」 「はぁ……」 気のない返事をしておきながら、依央は隣で律儀にメモを取っている。静和なメモ帳すら持ってくるのを忘れてしまった。 「で、ここからが本題。企画は吉永くんだけど、名義は梶原くんでいくから」 「は?」 今度の依央の返事は、怒りと疑心が滲んだ「は?」だった。 「いやいや、それはさすがによくないですよ。いくら顔出しのない開発者だからって」 彼はぐっと感情を押しこめ、なんとか理屈で説明しようとする。その機微に阿掛は気づいていない。 「顔は出るよ。社外向けにブログとか、あとゲーム雑誌にも開発者のインタビューで載るし。上手く行けばウェブメディアからも取材が来るんじゃないかなあ」 具体例を出され、企画が急に現実味を帯びてくる。それでも相手が上司だからか、梶原依央はなんとか冗談で済まそうとした。 「嫌ですよ俺。阿掛さんの言う通りエロゲにしたとして、全部俺の性癖ってことになっちゃうじゃないですか」 「それがまたいいんじゃないの。こんな爽やかイケメンがあんなえげつない内容考えてたんだって。ギャップ萌えってやつ?あ、この言葉はもう古いか。でも話題にはなると思うんだよな」 阿掛の提案は本気で、後付けの理由は冗談だ。たぶん、人前では雇用形態とか言えるわけないから。インタビュー記事や対談で、華のない人間を出すわけにはいかないので見目の良い人を選びますなんて、はっきり言うわけにはいかないから。 「いえ、俺の冗談は別にいいんですよ。でも企画を考えた吉永さんの方がどう思うかって話を……」 彼は静和のことを考えて怒ってくれているのかもしれない。そう判断して、感情的になる彼の袖を引っ張った。このままでは話し合いが終わりそうにないし、梶原依央と上司の間に亀裂を走らせたくもなかった。 「僕……私の方は、問題ありませんので」 今まで黙っていたから、急な発言になってしまった。それでも阿掛は言質はとれたと思っているらしい。梶原依央はぽかんとしていた。自分は彼の驚く顔ばかりを見ている気がする。 「失礼します」 そうして静和は仕事に戻った。部署の飲み会に使う店のピックアップを頼まれてたから、早めに提案しないと。 まだ梶原依央が見ていたけど、気づかないふりをした。帰りも、彼に挨拶はせずそのまま帰る。どう言葉にしていいか分からないから、卑怯だけど言外に訴えたかった。気にしないでと。 最初は、自分が企画のメンバーとしていらないと思われたようで悲しかった。でもそれだけだ。この後、責任者になった梶原依央が、企画者の自分に細かい設定を聞いてきてくれるかもしれない。そう思うと、自分の存在が認識されると思えて胸が弾んだ。

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