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第61話 好き

結局、あの企画は依央を中心としてチームが作られた。静和はアシスタントという名目で、世界観や設定のを依央に聞かれる度に答えた。彼と気軽に話せることも、アシスタントという役名がついたことも嬉しくてたまらない。 依央とは、定時に上がれる日をそろえて、友だちとして飲みに行く約束をした。それはそれとして、彼がまだお詫びはしなきゃ気が済まないというので、依央のおごりという形で、ふたりで焼肉に行くことになった。 「俺ね、静和みたいなひとって大好きだから」 「……?」 依央が連れてきてくれた店は、静かな個室が売りで、金曜日だというのに騒がしさはなく、向かいに座る彼の言葉もはっきりと届く。 なのに反応が上手くいかず肉を落とした。脳がバグっている。なんて言った?聞き間違い? 「もちろん外見っていうか……小さくて、大人しくて……清純っていうの?そういうところもいいなって思ってるけど。あ、これって失礼かな?」 静和は首を横に振る。もっと聞いていたいような、恥ずかしさで耳を塞ぎたいような気持ちになる。 「でも、内面もちゃんと見てるから」 見てる。たった三文字で胸が弾んだ。しかしその喜びに応える言葉を知らず、網の上に落としてしまった肉を引き上げおもむろに口に含んだ。焦げていて苦い。でも美味しい。 「物静かだけど、自分の世界をちゃんと持ってるよね」 彼の静和に対する評価には、相変わらず首を傾げるしかない。網からまだ焼いている肉の油がおちて音を立てる。 「そういう人が、めちゃくちゃ好き。俺はそういうタイプに嫌われがちなんだけどさ」 「……そんなこと、ないと思う」 「えー、じゃあ静和は俺のこと好き?」 そのしつもんには答えられなかった。好きの二文字を口に出したら戻れないような。気軽に焼肉など行けなくなるような気がしていたから。 「いいけどさ。まだお互いのことあんまり知らないもんな」 これから知っていこうということで、彼は色んな話をした。静和には特に教えるほどの自己もない。よく喋る彼の話に相槌を打つだけだ。付き合いや愛想笑いでそうしたわけじゃない。ころころ変わる依央の表情が面白くて、ずっと見ていたくて、気づけば笑いながら頷いていた。 彼の話はいろんな方向へ飛んだ。酒が入ると、なぜか恋愛の話になった。 恋人はいないって言ってたっけ? じゃあ好きな人は? 初恋はいつ? 好みのタイプってある? 根掘り葉掘り聞かれても、静和から掘り出せる情報は何も無い。やがてしこたま酔っ払った彼は過去の苦い恋を、泣きそうな顔で語り始めた。 「だから、元カノも元カレもみーんな文化部でさ。だいたいいつも、好きになった人を追いかけて、俺が後から入部した形」 放課後の甘酸っぱい逢瀬から、振られた悲しみまで。違う世界の人の話を聞くようで、興味深かった。自分相手によく笑い、喋ってくれる。それはかつておかしくなる前の姉と自分の仲を思い出させた。

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