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第66話 壊れる
そうだ。あの時、彼が作っていたゲームの名前が、確か――――。
そこで、頭の中で何かが割れる音がした。
それが彼の言ってた「壊れる」の意味か。
以降は、頭が理性ではなく本能で、嫌悪感でいっぱいになる。
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……」
何が嫌なのかは、はっきりと言えない。死に際まで惨めだった自分なのか。自分を惨めにした者たちに対してか。具体的な対象は思い描けないまま、ただ嫌悪の感情だけが残っていた。
それらを振り払うように腕が宙をもがきつづける。理由も分からないままに涙か零れ続ける、それでも自らの腕は明確な意志を持って動いた。掴みたいものがあった。
手が届く。掴んで、爪を立てる。自分の爪が彼の皮膚を引っ掻き血を掠めとる。痛いだろうに、彼はその手を振りほどかなかった。
「僕を、無視しないで……嫌わないで……あいして」
最後はもはや呻くだけの声で、言葉になっていたかも怪しい。けれど彼はこちらの唇を見つめていた。だから通じた。そのことに安心する。視線が自分に注がれていることで息ができる。大声を出した後に酸素を思いっきり吸い込むとひゅっと音がした。そして激しく咳き込む。苦しさで喉を掻きむしる手は、彼が止めた。
「それがほんとの望みなんだね」
やっと分かった。嬉しい。彼に抱きしめられてそう囁かれる。けれど、その言葉は違う。自分がずっと欲しかった言葉じゃない。やっぱり駄目なんだと、身を捩って抜け出そうとする。手を取られると同時に、望んでいた言葉が耳を優しくくすぐる。
「愛してる」
それは、僕だけ?
誰にでも言える「愛してる」なんて欲しくない。だからそう尋ねようとしたのに、彼は囁くと同時に腹を押した。
「んん……っ」
苦しい。だけど体はその先を期待している。今押された箇所を、中から抉られたら。きっともっと気持ちいい。気持ちよさを運んでくるのは、愛されているという実感だ。
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。彼を押し倒す。馬乗りになって、勃起した彼の性器をそのまま突っ込んでもよかった。なのにこんな時に限って、自分の体には上手く挿らない。後ろ手で彼のそれを擦りながら、先走りのぬめりでゆっくりいれられないかと考える
「待って。そのままだと痛いよ」
別にいい。
既にぐちゃぐちゃにされた体だ。それよりも、したいことをしたいようにできない方が嫌だった。
「くるしくてもいい。いたくてもいい」
「どうして?」
駆け巡った記憶の中の、朧気な男を思い出す。自分に馬乗りにされて横たわる目の前の少年に、少し似ていた。
彼は最初、自分に同情して話しかけてきた。仲良くなったのも、自分が可哀想な目にあっていたからだろう。
「そのほうが、ぼくを見てもらえるから」
目の前の少年は少し困ったような顔をする。自分の頭の中までこじ開けたのは彼だ。だから理解してもらえると思っていたのに。かなしい。また涙が零れた。彼が手を伸ばしてそれを拭う。
「痛そうじゃなくても、苦しそうじゃなくても見たいよ。気持ちよさそうにしてる可愛いところが見たい」
「あ、ん……っ」
そして下腹を摩られた……と思ったら手をかざされ、そこに熱が集まる。さっき押されたのは、この魔法を使う場所を定めていたのかもしれない。
体が震える。寒いからじゃない。むしろ――――
「……あついっ」
まだ挿入されてもいないのに、腰ががくがく震えて止まらなくなった。起きていられない。
「気持ちいい?」
「うん……っ」
彼の腹にへこへこと性器をこすりつける。何回もしないうちにすぐ射精した。その時の快感は頭の中を駆け巡り、ずっと支配する。ひとりでしている時、絶頂の後に弛緩がすぐやってきた。なのに今の状態は何だろう。高いところへ上ったまま降りてこられない。何もされていなくても、甘く、気持ちいいままでいる。
「はぁ……っ、あ、ん……っ」
快感を逃がしたくて、甘い呻き声を出す。しかし吐く吐息は熱くなるばかりで、体の中で快感は増幅し続ける。
「あっ、……ぁ……」
唇が閉じられない。入ってきた指を夢中になって咥える。唾液が滴り落ちていく。わずかな刺激も動作も、全部が快楽に繋がり脳が焼け落ちそうだった。
「あぁっ……」
行き過ぎた刺激に戸惑っていると、そんなこともお構い無しにぬるりと指がはいってきた。濡れている。彼が道具を使ったのか、魔法か何かか。分からなかったが、もうそんなことはどうでもいい。
「ん、ぁ……っ」
一本、二本。中に入る指が増え、ばらばらに動き、掻き回す。自分でも意思に関係なく、ただより快楽を貪ろうと腰が動いた。
「やぁ……っ」
指が出ていく時の物足りなさとむず痒さ。意地悪しないで。そう懇願する前に、乗っていた体は退かされていた。
「ひぅ……」
覆いかぶさって、性器を後孔にあてがう、体に見合わない大きさのもの。全て体内におさめたら絶対に痛いと思う。なのにかけられた魔法のせいなのか。触手のような大きなものに犯されたせいなのか、すんなりと待っていたように飲み込んでいく。
最初は確かめるように浅いところを何度も出し入れされた。
浅いところで焦らされるのが好きじゃない。早く、奥までゆっくりと挿れてほしかった。期待して、抜こうとすると中が絡みついていくのが分かる。
「あっ、あんっ、あぁっ」
やっと奥に挿ってきた。小刻みに突き上げられると、視界がちかちかと点滅する。
「あ、やぁっ……もう……あぁっ」
「嫌なの?」
「うんっ、やだぁ……おく……あっ……」
「浅いところばっかりの方が嫌そうだったけど、違うの?」
「きもち、いい……から……」
「怖いんだ?」
素直に頷く。気持ちよすぎるのは怖い。痛みと快感の線引きが難しくなって、体がぐちゃぐちゃになる気がする。
「大丈夫だよ」
「あんっ」
ぐちゃぐちゃと水音を立てながら奥を突かれると同時に、腹をさすられる。それだけで快感が何倍にも膨れ上がり、背を弓なりにして体が跳ねた。
「魔力の影響かな?」
彼が触れている腹には、妙な模様があった。白い肌に映える鮮やかな薔薇色の模様は、触れる度に爪先まで弱く甘い電流を流す。
「性感帯になってるみたいだ」
優しく撫でると、幼子のように首を横に振る。嫌がっているわけではなさそうだった。
「さわるの、そこだけ……?」
「ああ、そうだったね。全部ぎゅっとしなきゃ」
その行為も、彼の言う「愛して」の内に入るのだろう。
「んんっ」
甘く囁かれキスを落とされる。
唇も、肌も、全部触ってほしい。彼はなんでそれを知ってるんだろ。気になったのは一瞬で、やがてリュナの頭は熱に浮かされた時のように回らなくなる。
「次はこうしよっか」
「あ、ん……っ」
覆いかぶさっていた彼が退く。どこにそんな力があったんだろう。持ち上げられて、性器が抜ける時には名残惜しそうに後ろがひくついた。内腿を精液が伝っていく。
すぐに向きを変えられ、背中に彼の体温を感じる。温かいと思う間もなく体をおろされ、再度貫かれる。
「あああぁっ」
ぎゅうっと抱きつくように押さえつけられ、快楽の逃げ場がない。太ももが震えて足先がぴんとのびる。何ひとつ自由が聞かない。なのに拘束されている事実にすら感じてしまう。
「耳でも気持ちよくなろうね」
後ろから舐められ、水音が直接脳内に響く。
「んっ、あ、ぅ……」
見られているのが分かる。じっと反応を観察されてる。
「気持ちよくなれて、いい子だね」
「あぁんっ」
たったひと言囁かれただけで、性器が液体を零す。埋めるように中に入っている彼のそれからも搾り取ろうと、内膜が収縮する。
「魔力が紋章を通じて思考回路にも影響してるのかな……植物の成長速度に関係なく花を咲かせられるなら、人間にも……」
よく分からないことを言っている。やだ。戻ってきて。僕だけを見て。後ろから抱きしめるように回されていた彼の手を、口元に持ってきて咥える。
「さびしくなっちゃった?」
こくりと頷く。
「素直だね。いい子」
「んんっ」
声で脳をかき混ぜられている感覚があった。
「きもちいい……おかしい……うごいてないのに……」
「大丈夫。何も変なことじゃないから。もう少し頑張れる?もっと気持ちよくなろう?」
「あっ……!」
そのまま前に倒される。後ろから打ち付けるように挿入された。まだ気持ちいいところを潰されたときの痺れる感覚が残ってるのに。そのまま疼く場所を何度も突かれた。
「あっ、あぁっ、も、でる、でちゃうっ」
精液とは違う何かを漏らす感覚があった。透明な液体がシーツを濡らしていく。同時に、彼が自分の中に出しているのも分かった。
「はぁ……は、ぁ……ん……っ」
下腹の紋章がまた熱を持つ。欲しかった物が与えられた。でもまだ足りない。
「……もっと」
はしたないとまた誰かに笑われるかもしれない。だからこの声は聞こえなくていい。このまま終わってもいい。そう思っていたのに、彼はしっかり受け取って笑う。欲しかったものは、またゆっくりと挿ってきた。
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