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第73話 化け物退治
「残念。出ていっちゃったね」
「んぁ……っ、ふ、うぅ……」
リュナは快楽に呑まれていて、気にも留めていないようだった。しかし内膜の収縮がいつもより激しい。中は狭く、けれど熱く蕩けていた。見られていて気持ちよかったことは間違いないだろう。
「ひぁっ……あぁぁっ!」
中に白濁を注ぎ込むのと彼が達するのは同時だった。出し切ってなお、奥はひくつき、より精液を搾り取ろうとする。それがまだくっついていたいというおねだりのようだった。
「今日は、これでおしまい」
「ん、やぁ……っ」
名残惜しそうに引き抜くと、感じる浅い箇所に擦れたのか、リュナは短い嬌声を上げた。
くったりとベッドに寝ているのをいいことに、汗や体液に塗れた体を拭いていく。その間にも余韻が抜けていないのか、彼は小さく息を漏らしながら体を跳ねさせていた。
呼吸で胸が上下する間隔が一定になっていく。今日はもうこのまま寝てしまうだろう。明日の彼はどっちだろうか。壊れてただ愛情を貪りたがる方か。理性を少し取り戻して素直になれない方か。可愛いからどちらでも構わないけれど。無理はさせたくなかった。
逃げ出したセスが辿り着いた場所で、目当てのものはすぐに見つかった。そこは臆病な性格から、昼間でも夜でも決して近づこうとしなかった場所。物資が供給される棚だった。
セスは瓶に詰められた液体を手に取る。中身が何かは分からないが、きっと自分に必要なものだと思った。
この直感も、比較的すぐに辿り着けた場所も、全て自分に都合がよすぎる。仕組まれているような気さえする。この世界自体がもしかしたら……セスは慌てて首を横に振った。考えすぎだ。もしそうだったら、自分はリュナと……なりたかったのだろうか。恋人同士に。違う。抱ける、抱けないの問題じゃない。自分にとっての彼は、罪が許された時に見せたあの美しい姿が全てだ。
セスが部屋に戻ると、ちょうどリュナが気をやるところだった。背がしなり、小刻みに何度か震えて果てた。
ヴィオが中から性器を抜く。下品な音がして白濁が溢れ出す。
リュナはぐったりとしていた。ヴィオはそのまま彼をベッドに寝かせ、汗で額にはりついた前髪を払った後、優しく撫でる。まるで恋人のように。
その姿を見た途端、セスの頭がかっと熱くなる。許せなくなった。彼はそんな風に扱う人間じゃない。敬い奉られるべき美しい人だ。
気配を殺して近づく。ヴィオは目の前の彼に夢中のようで、気づかれなかった。そんな彼に、声をかけるなんてことはしなかった。したくなかった。彼がこちらに背を向けているところを狙って、瓶の中身をぶちまける。リュナにはかからないように気を遣いながら。
「痛……っ」
その瞬間、彼の皮膚は焼け焦げ、膨れ上がった。腕が赤黒い肉塊と化す。これが彼の本当の姿。リュナは狂ってなどいなかった。むしろ今、彼の手に堕ちることで狂ってしまったんだ。自分はどうして気づいてやれなかったのだろう。
「この、化け物……っ」
呻くような唸るような声で吐き捨てれば、さすがに向こうも気づく。鞭のようにしなる肉が飛んできて、セスは拘束され、屈服させられた。肉が焼けこげるような音は確かにした。効いていると思ったのに、見上げるとヴィオなんでもないような顔をしていた。
「ひどいなぁ。どうしてこんなことするの?」
「リュ、リュナ様を解放したいから……彼はあんな風にしていい人じゃない……!」
「リュナは普通の人間だよ?ずっと誰かに愛されたいって言ってた。おれは好きだからそれに応えた。当然でしょ?逆にあんたはどう思ってるの?リュナのこと、指導者じゃなくて本当に神様だとでも思ってた?」
「さ、最初は、美しい人だと思っていました」
ただ目を奪われた。本当にそれだけ。当時の光景を思い出すと自然と声が震えた。
「天からの御使い……神の使徒……いえ、名前などどちらでもいいのです。ただ、あの時、私は彼に救われていました。その言葉に。一挙手一投足に」
だから、セスは付き人に立候補した。
「あの時以降、彼を見ると、狂ったように鼓動が鳴り出すんです。……好き、だったんだと思います」
「なのに抱かなかったんだ?」
「恐れ多い……怖かった……」
ヴィオが白々しい目で自分を見ている。自分でも分かっている。さっき見たもの、彼に言われたこと、反応してしまった体。でもこれは理性で抑え込むことができるはずだ。自分はヴィオのような化け物とは違うんだから。
「私は、リュナ様の名前を呼べれば自分は満足だった……彼だってそれで満たされていたはずなんだ……それをお前が狂わせた……」
「心外だよ。おれは本当のリュナを見たかっただけだし」
「そのエゴが、彼をどれだけ追い詰めたのか、分かっているのか!?」
「でもさ……どっちにしてもリュナは追い詰められてたと思うよ。そうしたのが、おれかあんたかの違いがあるだけ」
「どうしてそんなことが分かる!?」
「知っているから。この世界のことは生まれた時から頭にあったよ。で、あんたはこの世界の主人公になる可能性があった。だからリュナを追い詰めるのはあんたのはずだった」
予定が狂ったと、忌々しそうにヴィオは言う。
「あんたがリュナに取り入らなければ、あんたさえ来なければ、おれがリュナにこんなに嫌われることはなかった」
無邪気に見えたヴィオの本性が、これか。
「……っ!」
突然、右腕に強烈な痛みが走った。
「その義手、おれが魔法でくっつけたんだもん、外すことだってできる」
そして、狂ったように笑い出す。リュナが追い詰められていた時と似ていた。
「見逃してあげる。あんたの本当の気持ちにも、気づかなかった振りをしてあげる」
セスは確かに、勢いに任せてヴィオへと液体をかけた。それだけでリュナを消え救い出せるものだと思っていた。実際にヴィオの肌は爛れ、焼け焦げる音もする。なのに彼は倒れない。痛みにも呻かない。
「初めて会った時からリュナが好きだったんだ……最初からそう決まっていたみたいに。壊してでもおれのものにするんだ……だから出ていって。出てけ!」
ぶよぶよと膨れ上がった触手でセスの体は引っ張られ、浮かされ、廊下に投げつけられた。
壁に叩きつけられ息が詰まる。無情にもドアは閉められた。開かない。この後、彼はあの人を閉じ込めて何をするのだろう。
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