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第77話 閉ざされた扉
中庭に出ると、放し飼いの猫のような人がいた。
ここの施設に来てから3日目のことだった。自分の名前も覚えておらず、記憶も朧げ。発見してくれたのは、ヴィオさんという青年で、呼ばれたい名前が決まるまで待つと言ってくれた。
いつものこの時間、多くの人はヴィオさんと礼拝堂にいるらしい。そこで何かありがたいお話が聞けるようだ。しかし自分はまだ何も分かっていないから、ヴィオさんには「次は行きます」と断って、今日は建物の中を探検することにした。
「ここがヴィオさんの言ってた礼拝堂か」なんてぼやきながら、中庭に埋められていた花をなんとなく見る。
その人は、ふらっと自分の隣にやって来た。名前を聞くと、柔らかな声で「リュナ」と名乗った。綺麗だけど掴みどころのない、美人な猫みたい。そんな不思議な第一印象だった。
リュナさんはずっと花を見ている。
「……花、お好きなんですか?」
もしそうなら、外見の印象とぴったりだな。このまま会話を広げられないかな。なんて思って話しかけてみる。
「……嫌い」
会話は一瞬で終わってしまった。いや、めげるのはまだ早い。
「でも、じっと見てましたよね……?」
そう尋ねれば、花に向いていた視線が自分へと移る。丸い目で見つめられると、同じ男同士なのになぜかどぎまぎしてしまう。
「今日は、壊してもらえたから。だから気分が良くて、花が咲いてても別にいい」
「壊し……え?」
不思議な言葉を言い残し、リュナさんはまたふらふらとどこかへ行ってしまった。彼が立ち上がると、甘い香りがした。気まぐれで妙な色気のある、不思議な人だった。
そのことを、夕食前に廊下でばったり会ったセスさんに話してみる。ヴィオさんがこの施設のリーダーだとしたら、セスさんは副リーダーのような役割をしている人だ。主に当番表を作ったりとかしているらしい。行き届いていない掃除を黙々とこなしている姿を見たこともある。大きくて寡黙な人という認識だった。だけどヴィオさんに対してはどこか怯えているようにも見える。長い共同生活を送っているという話だったから、まだ自分の知らない何かがあるのだろう。
「リュナ様……」
「知っているんですか?食事の時には見たことないですけど」
「……彼は、私たちとは違う生活をしていますし……かかわらない方がいいです」
冗談ではなく忠告だと、真面目な顔をしてセスさんは言った。
それでも、夜にふらふらと歩いているリュナさんを見たら、追いかけてしまっていた。ここには消灯の時間というのがあって、その時間を過ぎた後に部屋を抜け出すと、するヴィオさんやセスさんにこっぴどく怒られるという話だ。リュナさんが出かけるのを止めたいという気持ちと、今からどこに行くつもりなんだろうという好奇心あった。
彼の後をついていくと、ヴィオさんの部屋に入っていくのが見えた。何か相談事だろうか。しばらく待ってみたけれど、出てくる気配はない。
しばらくすると、物音が聞こえた。それから呻くような声。中で何が起こっているんだろう。暴力沙汰だったら止めなきゃいけない。力に自信はないけど。
中の音を聞こうと扉に耳を当ててみる。
「ひぅ、あ、やぁっ、もっとぉ……」
呻きだと思っていた声に、熱と甘さこもっていく。喘ぎ声だと分かった瞬間、体がかっと熱くなった。
止めるとか、消灯の時間とか、そんな問題じゃない。
慌ててその場を去ろうとした時、なぜか扉が少し空いた。
人の情事なんか見ちゃいけない。それが常識なのに、隙間から肌色がちらつくと、目が離せなかった。
「あ、んっ、あぁっ……!」
あんなに大きい性器を、後ろの小さな孔で咥えこむなんて、その上で内側を擦られるなんて、絶対痛いに決まっている。実際に眦に涙を浮かべている。乳首もかりかりと引っ掻れたりつままれたりして、真っ赤になっている。その度にいやいやと首を振りながら腰を揺らしていた。嬌声には痛みじゃなく快楽が滲んでいる。
「そこで見ているのは、誰?」
「ヴィオさん……!す、すみません、ぼく、覗き見なんてするつもりじゃ無くて……」
ただリュナさんを追ってきただけだと慌てて告げる。
「俺もリュナも、別に見られたって構わないよ。愛し愛されることは、教義でも礼賛されてる。恥ずかしがることじゃないんだ。潔癖な人は、俺たちに嫌悪感があるみたいだけど」
リュナさんが言葉を紡ぐ唇にキスをねだり、ヴィオさんは啄むようにしてそれに応える。
「リュナに惹かれるのも無理ないと思うし。寂しがりやで、放っておけないところがあるっていうかさ」
リュナさんとは今日あったばかりで、内面までは知らない。綺麗で少し浮世離れしてる人なのかな、あんまり人間っぽくないっていうか、程度に思っていた。
でも、今はもう彼が人間だと分かる。生々しい結合部が見えているからだ。そこはみっしりと男の性器を加えこんでいて、絡みつくように蠢いている。それだけで、この行為が初めてではなく、快楽を伴って、何度も行われていることなのだと分かる。
「あ、はぁっ、あんっ!」
奥を突かれて喘ぐ姿は、淫らなのにどこか儀式めいた行為に見えた。
「や、も、イっちや……イく、あ、あぁっ」
何度か体を震わせた後、力を抜いて幸せそうに彼になだれかかっていく。上下する胸と火照る肌が艶かしい。
「……こんな施設にいる人でも、幸せになれるんですね」
組織の秩序を乱したからと、地下に繋がれて呻いている人もいた。
「彼らはまだ罪を償っている途中だからね。ここにいるのは罪人ばかり。自覚のあるなしにかかわらず、何かしらの罪があるからここに来るんだよ」
礼拝堂では、人々の罪をヴィオさんが聞き届け、必要であれば罰が与えられるのだという。
「次、礼拝堂に来る時までに考えておいてね、君の罪を」
そして、今度こそ扉は完全に閉ざされた。
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