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第7話 ドキドキ隣人ライフ
それからしばらく、観葉植物のことやマンション周りの話をした。
どれも何気ない話題なのに、瑞樹と話していると不思議と時間が早く感じる。
「観葉植物か……いいな。俺も育ててみようかな」
「簡単だよ。水やるだけでも癒されるし」
瑞樹がふっと目を細める。
「涼太くんって、笑うとすごく印象変わるね」
「え?」
「いい意味で。……すごく可愛い」
またその言葉かよ……。
「可愛くなんてねぇって。それに、瑞樹みたいなイケメンに比べたら、俺なんて普通だよ」
軽口みたいに笑う瑞樹につられて、つい口元が緩んだ。
あの完璧そうな見た目なのに、話すとわりとフランクで距離が近い。
「えー、謙虚だなぁ。でも、自分の魅力に気づいてないだけかもしれないよ」
配信者じゃない素の俺には、“魅力”なんて縁遠い言葉だと思っていたのに。
「そういえば、瑞樹はどんな仕事してんの?」
「俺は……まあ、人前に出る仕事かな」
「人前?」
……接客業とかなんかなぁ。
この見た目なら、店頭に立ってるだけで客が寄ってきそう。
「だからさ、こうして普通に話してるのが新鮮で……楽しい」
何気ない一言なのに、不思議と胸に残る。
「……ちょっとわかる気がする」
「じゃあさ、また話そうよ。お互い迷惑じゃなければ」
唐突な提案に、心臓が跳ねた。
「……うん、ぜひ」
自分でも驚くくらい素直に答えていた。
「そういえば、連絡先交換してなかったよね」
「え?」
「ご飯の約束もしたし、これからもやりとりするから」
瑞樹がスマホを取り出す。
自然な流れなのに、なんでこんなにドキドキしてんだ、俺。
「あ……うん」
コードを読み取って、友達に追加する。
瑞樹のアイコンは風景写真だ。夕焼けの海。
「本当にありがとう。また何かあったら頼っていい?」
「あ、ああ……いつでも」
「よかった、よろしくね」
変に意識しすぎてる自分に気づいて、少しため息をつく。
「じゃあまたね。おやすみ、涼太くん」
「お、おやすみ……瑞樹」
自分の部屋に戻ってから、ベッドに倒れ込む。
「……何なんだよ、あれ」
天井を見つめながら、さっきのやり取りを思い返す。胸がドキドキして、止まらない。
スマホを見ると、もう瑞樹からメッセージが届いていた。
“今日はありがとう! また連絡するね”
「……早っ」
思わず笑ってしまう。
俺は震える指で返信を打った。
“こちらこそ。またね”
送信ボタンを押して、スマホを見つめる。
ああ、もう。完全に気になってる……。
「やばい……」
引っ越しの挨拶だけのはずだったのに。
なんで俺、こんなに動揺してるんだよ。
瑞樹は、きっと何も意識してない。
ただの隣人として、普通に接してくれてるだけだ。
静かな夜に混じる、新しい声。
平凡な俺の日常に、小さなスパイスが加わった気がした。
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