13 / 20
第13話 妹が暴いた、隣のイケメンの正体
日曜の午後。
俺は部屋でのんびりしていた。
瑞樹と食べた朝ごはんのことを思い出しながら、観葉植物に水をあげる。
あれから話してないな……元気にしてんのかな、瑞樹。
そんなことを考えてたら、ピンポーン。
「はーい」
ドアを開けると、買い物袋を抱えた妹・玲奈が立っていた。
「お疲れ様ー、お兄ちゃん!」
「玲奈? なんで急に?」
「近くまで来たから寄ったの! あ、これお母さんからの差し入れ」
袋いっぱいの惣菜。……うん、母さんらしい。
「ありがとう。入るか?」
「もちろん!」
玲奈が部屋に入って、すぐにキョロキョロ。
「相変わらず綺麗。あ、観葉植物も元気じゃん」
「まぁな。コーヒー淹れる?」
「うん!」
コーヒーを淹れてる間、玲奈がベランダの方をのぞく。
「ねえ、お兄ちゃん。隣に誰か住んでる?」
「ああ、瑞樹か。いいやつだよ」
「瑞樹……?」
玲奈がピタッと動きを止める。
「どんな人?」
「爽やかで優しくて、俺より年下かな。顔、めっちゃ整ってる」
「整ってる……?」
「なんか演劇にも興味あるっぽい。台詞とか覚えてた」
「台詞!?」
玲奈がなんか真剣な表情になってる。
「なに? どうしたんだよ」
「ねえ、その人の名字は?」
「え? 瑞樹の名字はえーっと、ひな、ひなた……だっけ」
「……外見の特徴は?」
「えっと、背が高くて、髪は茶色くて笑顔がすげー爽やかで……」
「ちょ、待って、それって――!」
玲奈がスマホを取り出し、猛スピードで検索を始めた。
数秒後、俺の目の前に突き出される画面。
「これじゃない!?」
画面には――見覚えのある顔。
でも、照明を浴びて笑うその顔は、俺の知ってる瑞樹よりもずっとキラキラしてる。
「……え? これ、瑞樹?」
「そう、日向瑞樹(ひなた みずき)! 今大人気の若手俳優だよ。私、ファンなの!」
「俳優……!? 嘘だろ!?」
「本当! 去年ドラマでブレイクして、今ノリに乗ってるの。ねぇお兄ちゃん、マジで知らなかったの!?」
「知らねぇよ……普通の人だと思ってた」
「普通!? 超有名なイケメン俳優だよ!?」
玲奈のテンションが急上昇。
「で、どんな感じ? 実物ってどれくらいカッコいい?」
「え、あー……この前、一緒に朝ごはん食べたけど」
「えぇっ、一緒に? それ事件だから!」
テーブルに身を乗り出す玲奈。俺は慌てて手を振る。
「いやいや、隣人だからな。普通にごはん!」
「普通じゃない! 瑞樹くんと朝ごはんだよ? ファン何万人いると思ってんの!?」
瑞樹ってそんな有名人だったのかよ……寝癖つけてベーコン食べてたのに。
「ねぇねぇ、サインもらえない? 一生のお願い!」
「いや、プライベートだし……」
「だよねぇ、でももしチャンスあったら……!」
玲奈のキラキラした目。断れねぇ。
「……わかった。聞けたらな」
「やったー! お兄ちゃん神!」
そのあと1時間、玲奈はずっと瑞樹トーク。
ドラマの話、映画の話、CMの話――俺、頭パンク寸前。
「瑞樹くんって、完璧で、爽やかで、理想の彼氏No.1なんだよ」
「……完璧、ね」
たしかに最初会ったときは、まさに“完璧”って言葉が似合った。
でも――寝癖とTシャツ姿で「いただきます」って笑って、ちょっとからかうようなあの顔の方が、俺は……。
「いいなぁお兄ちゃん。瑞樹くんと隣とか、人生勝ち組じゃん」
「そんな大げさな……」
「いや、ガチで羨ましい!」
玲奈が去ったあと、俺はソファーに沈みながら呟く。
「瑞樹……俳優だったのか」
俺に言わなかった理由。
でも、俺も配信者だって隠してるし……お互い様か。
夜。ベランダに出ると、隣の部屋の灯りがやわらかく光っていた。
カーテン越しに見える影が、なんだか遠く感じる。
テレビの中の人……でも、俺が知ってる瑞樹は――
寝癖で、Tシャツで、ちょっと照れて笑うあの瑞樹だ。
……どっちが本当の彼なんだろう。
ともだちにシェアしよう!

