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第17話 ぬいぐるみが教えてくれた秘密
side 瑞樹
撮影を終えて部屋に戻った俺は、すぐにスマホを開く。
今日はリョウの配信がある日だ。
――こんばんは、リョウです!
画面越しに聞こえる声に、自然と体の力が抜ける。
ああ、この声。どんな疲れも一瞬で消える。
『リョウくん、お疲れ様!』
『待ってたよ』
『今日も可愛い』
コメントが次々と流れる中、俺も「ひゅーが」として参加する。
『ひゅーが:こんばんは、リョウ』
画面の向こうで、リョウが笑っている。
顔は映っていないけど、声のトーンから笑顔が浮かぶようで、自然と口元が緩む。
『ひゅーが:今日も一日お疲れ様』
「ありがとう! みんなに会えると、疲れが吹き飛ぶね」
……やばい、たったそれだけで癒される俺って、単純すぎる?
配信が進むにつれ、リョウはいつものように少しえっちな内容に移っていく。
――えっと……今日は、リクエストに応えて……
恥ずかしそうに声を出すリョウ。
その仕草、その声――いつも通りのはずなのに、今夜はやけに気になる。
ふと、画面の端に映り込んだものに目が止まった。
ぬいぐるみだ。小さなくまのぬいぐるみが、ベッドの上にちょこんと座っている。
「……え?」
心臓が一瞬で跳ね上がる。
やっぱりそうだ。涼太くんの部屋で見たのと同じ。
この前、涼太くんはこんなの持ってるんだって気になって見てたやつだ。
「……まさか」
鼓動が早鐘みたいに打ち続ける。
俺は慌ててリョウの声を、涼太くんの声と頭の中で重ねてみる。
少し違う。配信の時の方が柔らかくて甘い。
でも、ときどき零れる素の声――それは、間違いなく涼太くんに似ている。
「……もしかして」
喉がカラカラになる。ありえない……いや、でも。
頭の中で可能性がぐるぐる回り続ける。
リョウ=涼太くん?
そんな偶然、ドラマじゃないんだから。
……でも、ぬいぐるみは嘘をつかない。
『ひゅーが:その後ろのぬいぐるみ、可愛いね』
思わずコメントを打っていた。心臓が飛び出しそうだ。
――え? あ、これ? 昔から持ってるやつだよ。推しの限定グッズ。
リョウが照れたように笑って答える。
その反応も、涼太くんっぽくて……もうだめだ。頭の中が真っ白になる。
「やっぱり、リョウは……」
配信が終わった後、俺は居ても立ってもいられずベランダへ出た。
夜風が少し冷たいのに、胸の鼓動は全然落ち着かない。
隣の部屋――涼太くんの部屋の明かりがついている。
「涼太くん……」
もし本当にリョウが涼太くんだったら。
俺は知らずに、あの人の秘密を覗いていたことになる。
涼太くんは俺が見ていることを知らない。
……そして、俺はリョウが好きだ。
「……どうしよう」
胸の奥が熱くて、怖くて、でもわくわくして……ぐちゃぐちゃだ。
けど、確信はまだ持てない。
……もう少し様子を見よう。
そう自分に言い聞かせて、震える手でベランダの戸を閉めた。
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