18 / 20
第18話 隣の彼が、俺の“推し配信者”説
今日はテレビドラマの収録が長引いて、俺はくたくたになって帰宅した。
「……はぁ、疲れた」
玄関で靴を脱ぎ捨てて、そのままソファーにばたりと倒れ込む。
今日は朝からずっと立ちっぱなしで、NGも何度か出して……監督の呆れた顔が脳裏をよぎる。
「……反省」
お決まりのようにスマホを手に取って、配信予定を確認する。
――リョウの配信、今日はなし。
「そっか……」
少し残念。でも今はそれより、頭から離れないのはあの疑惑。
リョウ=涼太くん説。
前回の配信で見えたぬいぐるみ。
あれは、涼太くんの部屋で見たのと全く同じ。
声だって、よくよく思い返せば……似てる。いや――同じだろ、あれは。
「……もう確定じゃん」
そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。
確かめたい。でも、どうやって?
まさか直接“涼太くんって、ライブ配信してるよね?”なんて聞けるわけがない。それに、内容も内容だし。
「……んー、でもさ」
ふと、妙案が浮かぶ。
――涼太くんの部屋に行けばいい。なんとか理由をつけて。
そうすれば、もっと確証が得られるかもしれない。
「よし」
立ち上がって、鏡で自分の顔をチェック。少し疲れてるけど、まあ大丈夫だろう。
軽く髪を直して、隣の部屋へ向かった。
インターホンを押すと、すぐに返事が返ってきた。
「はーい」
ドアが開いて現れたのは、部屋着のシャツにスウェットという気楽な格好の涼太くん。
髪は少し乱れていて、なんだか無防備。
この人が“リョウ”だったら――。
「瑞樹? どうした?」
「あ、ごめん。醤油切らしちゃってさ。借りられる?」
嘘だ。醤油なんて冷蔵庫に半分残ってる。
「醤油? いいよ。瑞樹が自炊なんて珍しいじゃん。ちょっと待っててな」
にこにこと奥へ引っ込む涼太くん。その隙に俺は――部屋をちらり。
……あった。ベッドの上に、例のぬいぐるみ。
やっぱり。
「はい、どうぞ」
「ありがと。……あのさ、涼太くん」
受け取って、少し間を置いて切り出す。
「うん?」
「今日、仕事で疲れちゃってさ。肩とか背中がバキバキなんだよね」
「え、大丈夫なの? 無理してない?」
涼太くんが心配そうに眉を寄せる。その表情がまた可愛くて、思わずドキッとする。
「うん、まあ。でも、俺、マッサージ得意なんだよね。疲れが取れるやつ」
「へえ、すごいな」
「涼太くんも疲れてるんじゃない? よかったら、やってあげようか?」
「え……っ」
涼太くんが目を泳がせる。
「お、俺に!? いやいや、大丈夫! 瑞樹のほうが疲れてるだろ」
「遠慮しないでって。醤油借りたお礼」
「そ、それは理由になってないから!」
おお、慌ててる。この反応、めちゃくちゃ面白い。
「……もしかして、触られるの嫌?」
「そ、そういうわけじゃないけどっ!」
慌てて否定してくる。その様子があまりにも可愛くて、俺はニヤリと笑った。
「じゃあ、決まりね」
「ちょ、ちょっと待って――!」
言葉を遮って、俺は自然な顔で彼の部屋に足を踏み入れた。
ともだちにシェアしよう!

