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第19話 近すぎるようで遠い
涼太くんは真っ赤な顔のまま、リビングの床にマットを敷いてくれた。
その手がぷるぷる震えてるのが見えて、俺は思わず吹き出しそうになる。
「じゃあ、うつ伏せになって」
「あ、ああ……」
素直に従ってうつ伏せになったけど、体はガッチガチ。
肩なんて、もう耳にくっついてるんじゃないかってくらい上がってる。
「……涼太くん、緊張しすぎ」
「し、してねぇから!」
嘘。
その声、100パーセント慌ててる。
「力抜いて。じゃないと意味ないよ」
「……わかった」
俺は涼太くんの背中にそっと手を置く。
シャツ越しに伝わる、熱。
その瞬間――ビクッと体が跳ねた。
「……ほら、やっぱり緊張してる」
「だ、だってさ……」
「だって?」
「……なんでもない!」
真っ赤になってる。かわいい。
「んっ……」
小さな声が漏れる。
「痛い?」
「違う……気持ちいい……」
その声。
……やっぱり、配信で聞いた“あの声”にそっくりだ。
いや、そっくりどころか――完全に、リョウの声。
俺は動きを止めない。
肩から腰へ、丁寧に揉みほぐしていく。
「はぁ……あ……」
吐息まで、やばいくらい色っぽい。
心臓が、変なリズムで鳴り始める。
「すごい凝ってるね」
「そう……かも……んっ」
甘い声がまた零れて、俺は思わず手を止めそうになる。
――ダメだ、これは反則。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……気持ちいい……」
ゆっくり腰へと手を滑らせると――
「ひゃっ!?」
涼太くんの体がビクッと跳ねた。
「ちょ、腰は……!」
「腰も凝ってるでしょ?」
「それは……そうだけどさ……!」
耳まで真っ赤にして顔を伏せる涼太くん。
ゆっくり肩甲骨を押していくと、少しずつ力が抜けていく。
「我慢しないで、楽にして」
「無理……!」
「なんで?」
「……瑞樹だから……なんか意識して……」
――え。
今、なんて言った?
「……え?」
「なんでもない! 今のなしっ!」
慌てて顔を伏せる涼太くん。
……ああ、もう。可愛いし、罪深いし。
この反応、ほんとにずるい。
俺はまた手を動かす。
腰を揉むたびに、涼太くんの体がびくびく震える。
「んっ……あ……」
「気持ちいい?」
「……うん……でも……恥ずかしいから、もういい……!」
そう言って、彼は体を起こした。
シャツを直そうとした瞬間――
「……っ」
襟元から覗いた鎖骨。小さなほくろ。
……見覚えがありすぎる。
リョウの配信で、何度も見たほくろとまったく同じ場所に。
間違いない。
“リョウ”は、涼太くんだ。
「どうした?」
「あ……いや、なんでもない」
必死に視線を逸らすけど、心臓はもう暴走中。
こんな近くで気づいてしまうなんて。
「……瑞樹、ありがとう。すごく楽になった」
「ど、どういたしまして」
目を合わせられない。
この人が、俺の大好きなリョウだなんて――
「今度は俺の番な! 瑞樹にもマッサージしてやる!」
「え、いいよ、そんなの」
「だめだよ! お返しするって決めたからな!」
真剣な顔で言うから、もう勝てるわけがない。
「……じゃあ、また今度ね」
「ああ、約束な!」
その笑顔が、画面越しのリョウと重なる。
……もう、心臓がもたない。
「……またね」
手を振る涼太くんに返す笑顔が、引きつってなければいいけど。
胸の中はもう、爆発寸前だった。
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