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第21話 年下の腕に甘える帰り

お店を出る頃には、すっかり暗くなっていた。 「じゃあ、気をつけて帰ろう」 瑞樹が再びマスクとキャップを着けて、駅へ向かう。 「同じマンションっていいね。帰るまで話してられる」 「……たしかに」 少しお酒が回って、体がふわふわする。 「涼太くん、大丈夫?」 「うん。ちょっとふわっとしてるけど……」 「ほら、腕組んで」 「え……」 「転んだら危ないから」 すました顔で腕を差し出してくる。 「……瑞樹って、そういうの慣れてるよな」 「慣れてないけど?」 「絶対慣れてるだろ」 「いや、ドラマとかでやってるだけだよ」 「ふうん」 「じゃあ、練習だと思って付き合ってよ」 にやりと笑う瑞樹に、観念して腕に手を添えた。瑞樹が腕を差し出してくれる。 「……仕方ないな」 恥ずかしいけど、嬉しい。俺は瑞樹の腕に、そっと手を添えた。 「今日、楽しかった」 「俺も。ありがとう、瑞樹」 「こちらこそ。涼太くんと話してると、なんか……落ち着くんだよね」 「え……」 「不思議だよね。隣に住んでるだけなのに、居心地いいし」 瑞樹がポツリと呟く。 その言葉に、俺の胸がキュッと締め付けられた。 俺も、同じ気持ちだ。瑞樹といると、なぜか落ち着く。安心する。 でも―― もし、瑞樹が俺の秘密を知ったら、どう思うだろう。 配信のこと。“リョウ”としての俺のこと。 「……涼太くん?」 「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」 「酔った?」 「ううん、大丈夫。ただ……」 「ただ?」 「……なーんか、今日が夢みたいだなって」 思わず本音が口から漏れる。 瑞樹は少し驚いた顔をして、それから優しく笑った。 「夢じゃないよ。ほら」 指先で俺の頬をつつく。 「わっ!」 「ね? 現実」 「……何すんだよ」 ぷいっと横を向く俺に、瑞樹が楽しそうに笑う。 電車に揺られて帰る途中、自然に肩が触れ合う距離になった。 「疲れたでしょ? 少し寝てもいいよ」 「大丈夫……」 そう言いながら、お酒と心地よい疲れで、だんだん瞼が重くなってくる。 「……涼太くん?」 「ん……」 気づけば瑞樹の肩に頭を預けていた。 「わ、ごめん!」 慌てて起きようとすると、瑞樹が優しく俺の頭を支えてくれた。 「いいよ。このままで。あと少しだから」 「でも……」 「無理しないで」 その声がやさしくて、抵抗できない。 「……ありがと」 つぶやいて目を閉じる。瑞樹の体温が温かくて、胸が高鳴る。 ――ああ、本当に好きだ。 マンションに戻って、隣同士のドアの前で並んで立つ。 「今日は本当にありがとう。楽しかった」 「俺も。また行こうね」 瑞樹がふっと真剣な顔になった。 「涼太くんちょっと酔ってるし、中まで送るよ」 「え、大丈夫だって!」 「ダメ。転んだりしたら危ないだろ」 「……子供扱いすんなよな」 でも、その優しさがくすぐったくて嬉しい。 鍵を開けてドアを押すと――自然な流れで、瑞樹も一緒に中へ入ってきた。

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