22 / 35
第22話 バレたら終わり、なのに
部屋に入るなり、瑞樹は当然みたいな顔でベッドに腰を下ろし、くまのぬいぐるみを手に取った。
水を飲んでいた俺は、思わず眉をひそめる。
「……それ、また触んの?」
「ん? だって可愛いし」
「……子供かよ」
「ふふ。これ可愛がってる涼太くん、けっこう想像つくな」
にやっと笑いながら、くまの頭をわしゃわしゃ撫でる瑞樹。
「……こら、返せ」
「やだ。今は俺の」
「おい……」
取り返そうとした俺の動きをかわして、瑞樹はそのままごろんと寝転がった。
くまを抱いたまま、ベッドの上から俺を見上げてくる。
「おい、ベッドで遊ぶな」
「いいじゃん。ふかふかだね」
「そういう問題じゃねぇって。勝手に寝転がんな!」
「えー、だって疲れたし」
「疲れたって……お前、俺の部屋だぞ!?」
「知ってるよ」
悪びれもせずに笑う瑞樹。くまをぎゅっと抱きしめて離さない。
「……なんでそんな堂々としてんだよ」
「だって隣同士じゃん。いいでしょ?」
「よくねーよ!」
俺が呆れて言うと、瑞樹がふと真顔になってぽつり。
「ねえ、涼太くん」
「……な、なに」
「なんかさ。隣同士ってだけで、こうして一緒にいられるの、変な感じじゃない?」
「……急にどうした」
「普通ならありえなくない? 俳優の俺が、こうして涼太くんちでゴロゴロしてるとか」
瑞樹は天井を見上げながら、わざとらしく肩をすくめる。
そのくせ、視線だけはちゃんと俺を追っているのがわかる。
「……涼太くんはなんとも思わない?」
「べ、別に……」
そう言った瞬間、瑞樹の指先がそっと俺の腕をなぞった。
「うわっ!? な、何すんだよ!」
「ん? 何って、ちょっと試しただけ」
軽く笑う声が妙に近い。
その音だけで、胸がざわっとする。
「ほんとに? なんとも思わない?」
「ほ、ほんとだって!」
強めに言い返すと、瑞樹は口の端を上げた。
その笑顔が余裕たっぷりで、ムカつくのに――妙にドキッとする。
「……なに笑ってんだよ」
「んー、可愛いなと思って」
「っ……!」
頬が熱い。視線を逸らしたのに、瑞樹はさらに詰めてくる。
「そういえばさ、涼太くんの声も可愛いね」
「……っ、声とか関係ないだろ!」
「あるよ。前からずっと思ってた」
その言葉に、心臓が跳ねた。
瑞樹はにやりと笑って、ゆっくり言葉を落とす。
「……俺、気になってることがあるんだ」
「……な、なにを」
「涼太くんについて」
俺の鼓動がどんどんうるさくなる。
「……俺についてって……なに」
「んー……」
瑞樹は視線をそらさず、くまを抱えたままぽつりと言った。
「涼太くんってさ、“リョウ”だよね」
「っ……は?」
頭の中が真っ白になる。
心臓が一瞬で跳ね上がって、変な声が漏れた。
ともだちにシェアしよう!

