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第23話 隣の“ひゅーが”、推しは俺

「リョウなんでしょ? 雑談と、たまにえっちな事してる配信者」 「な、なに言ってんだよ!? は!? どこ情報!?」 「俺、見てるよ。涼太くんの配信」 「――っ!!」 心臓が跳ねて、思わず立ち上がる。 けどその瞬間、瑞樹がすっと俺の肩を押してきて、ドサッとベッドに倒れた。 「お、おい! なにすんだよ!」 「……無理。逃げないでよ、もう確信してる」 至近距離。笑ってるくせに、目はやけに真剣だ。 「知るかよ……俺じゃねぇし……!」 「“ひゅーが”」 「……は?」 「知ってるだろ? 常連の“ひゅーが”。あれ、俺」 「――はぁぁぁああ!?!?」 思わず声が裏返った。 いやいや、待て。瑞樹が“ひゅーが”って……あの“ひゅーが”!? 「リョウの配信、毎回見てる。最初から」 「な、なんでそんなストーカーみたいなことをっ!?」 「だって好きなんだもん。リョウ、可愛いし」 「は、はああ!? 可愛いとか言うな!!」 「じゃあ、これは?」 瑞樹の指先が、俺の鎖骨をちょん、と突く。 「おんなじ。配信で見たほくろの位置、まったく同じ」 「ぐっ……そ、それは偶然」 「じゃあ、そのくまのぬいぐるみも偶然?」 「……っ!」 目の前で例の限定くまをひょいっと持ち上げられる。 やめろ、それガチで俺のだ! 「ほらね、もう隠せない」 「う、うるせぇ……!」 「俺、リョウの声も手も好きでさ」 そう言って、瑞樹が顔を近づけてくる。 息がかかる距離。心臓、爆発寸前。 「おいっ……近い!」 「近くで見ると、もっと可愛い」 「やめろバカ!!」 瑞樹はにやっと笑って、俺の耳元で囁いた。 「このまま、俺と……コラボ配信でもしちゃう?」 「誰がするかあああっ!!」 「じゃあ、リアルコラボ?」 「意味変わってんだろ!!」 俺が真っ赤になって怒鳴ると、瑞樹は声を出して笑い出した。 「……はは、涼太くん、ほんと反応そのまんま」 「っ、だから違うって言ってんだろ!」 笑いすぎて転がる瑞樹と、顔真っ赤な俺。 ――完全に、バレた。 「ねぇ涼太くん」 「……なんだよ」 「配信より、こっちの方がドキドキするね」 「うるさいっ!!」 そう言っても、顔の熱は冷めないままだった。 「そんな……なんで……」 声が震えて、言葉が続かない。 瑞樹の目がきらきらしている。 そして、手の力はがっちり俺を捕まえて離さない。 「リョウ……いや、涼太くん、えっちで可愛いよね」 「ば、ばかっ、だから人違いだって!」 「じゃあさ――」 すっと指が首筋をなぞり、俺のシャツのボタンが外される。 「俺ね、リョウが好き。ずっと触れたかった」 そう言って、瑞樹は俺の鎖骨にキスを落とした。 「んっ……!」 「リョウはさ、いつも一人でしてるけど、俺が相手になっちゃダメ?」 「ばっ……な、なに言ってんだお前……!」 くすぐったい唇が首筋をなぞり、ほくろをちゅっと舐められる。 背筋がぞわぞわして、変な声が漏れた。 「あっ……や、だからそれ……!」 「そうそう、その声。その反応。リョウそのまんまだよね」 瑞樹はくまを抱えたまま、にやっと笑う。 「まさか“推し”がさ、隣の可愛い涼太くんだったなんて、これこそ夢みたいだよ」 「……夢じゃねーからっ!」 否定する俺を見下ろして、瑞樹はますます楽しそうに笑った。 「ねぇ、涼太くん……マジでどうする?」 「どうするって……」 「このシチュエーション、どうするのかなーって」 小悪魔っぽく、でも真剣な目で見下ろされ る。 俺はもう、赤面して何も言えない。 「……っ、瑞樹、からかうな……!」 「からかってるっていうか、楽しんでるだけだよ」 その答えに、ますます頬が熱くなる。 「……もう、なんでだよ……」 「だって可愛いから」 ――これは反則だ。 瑞樹の微笑みと、くすぐったい指先、そして甘い声。 全部が、俺の心をじわじわ溶かしていく。 「……ねぇ、涼太くん」 「な、なんだよ」 「このまま、俺と……しちゃわない?」 「え……」 ぐっと距離を詰められて、胸がどきどきして、抗えなくなる――。

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