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第28話 “初めて”が君でよかった

目を開けると、天井が視界に入った。 体が重い。心地よい疲労感が全身を包んでいる。 隣を見ると、瑞樹が俺の肩に頭を預けて、穏やかな寝息を立てていた。 うわ、超イケメン……じゃなくて。 「……マジか」 小さく呟く。 本当に、やっちゃったんだ。瑞樹と。 頬が熱くなる。思い出すだけで恥ずかしい。 でも、嫌じゃなかった。 むしろ―― 「……っ」 顔を覆う。考えれば考えるほど、恥ずかしくなる。 やばい……めちゃくちゃやばいぞこれ。 だって、日向瑞樹だぞ。 ひなたみずき。超人気俳優の……。 「……ん」 瑞樹がもぞもぞと動いて、目を開けた。 「……おはよ、涼太くん」 「お、おはよう……」 瑞樹が眠そうに微笑む。その顔がやけに色っぽくて、思わず視線を逸らした。 「あれ、恥ずかしがってる?」 「んなことねぇって!」 「顔真っ赤だもん」 瑞樹が言って、ベッドの上でゆっくり俺の髪を撫でる。 その指先が、まだ熱を持ってるみたいで、くすぐったい。 「……もう言うなって」 「いや、なんか、可愛すぎてさ。ずっと信じられなくて」 「なにがだよ」 「まさか“リョウ”の中の人が、あんな顔するなんて思わなかった」 「うるさいっ! 忘れろ!!」 枕を投げつけたけど、軽く受け止められて、そのまま笑われる。 くそ、負けた気しかしない。 「あ、そうだ。体、痛くない?」 「……ちょっと、だけ」 「ごめん」 「別に。お前、ちゃんと優しかったし」 瑞樹が一瞬、黙る。 それから、少し照れたように視線を逸らして言った。 「……なんか、そう言われると余計照れるな」 「お前が照れるなよ!」 思わず突っ込むと、瑞樹は肩を震わせて笑った。 「だって、涼太くんが可愛いんだもん。反則級」 「可愛くねーよ……俺、4つも年上だぞ」 布団を頭まで被る俺の横で、瑞樹の笑い声が響く。 でも、すぐに静かになって、そっと肩に腕が回された。 「だから何? 年上だろうがなんだろうが、可愛いものは可愛いじゃん」 「……っ!」 心臓が跳ねた。 「それに、俺の“推し”のリョウ……あー幸せ」 そう言ってぎゅうぎゅう抱きついてくる瑞樹。 こいつ、俺じゃなくて“リョウ”だからこうやってくっついてきてるんだろ。 「もう、やめろって……」 顔を背けると、瑞樹がぎゅっと抱きついてきた。 「うわっ!? ちょ、瑞樹……!」 抵抗する気力もなくて、そのまま抱きしめられる。 「だって、涼太くんが可愛すぎるから」 「俺は涼太であって、“リョウ”が好きなだけだろ」 急にニヤニヤする瑞樹。 「へえ……」 「……なんだよ」 「あはは、なに、涼太くんは自分にヤキモチやいてんの?」 「は? 違うし!」 「俺は、リョウだからってだけじゃなくて、涼太くんだから、抱きたいって思ったんだけど」 そう言ってニヤリと笑うその顔がずるい。 ふざけたような口調なのに、目の奥がやけに真剣だから、心臓が跳ねた。 「リョウも涼太くんも、“最初の相手”って俺じゃん?」 耳元で囁く声に、背筋がぞくっとする。 「ばっ、ばかかお前!?」 慌てて距離を取ろうとしたけど、瑞樹はそのまま俺の手首を掴んだ。 その手の温度が、妙に熱くて離せない。 「これからも、俺と一緒に飯食って、仲良く運動しよう」 そう言われて、ああ、と頷きかけたけど。 「飯はわかるけど、仲良く運動ってなんだよ」 「解釈はご自由にどうぞ」 「……どっちにしても、責任取れよ」 「取るよ。たぶん一生」 「ばっ……!?」 軽口のはずなのに、言葉がやけに本気っぽくて、心臓が止まりそうだった。 ちなみに寝不足で仕事に行った瑞樹から、こんなメッセージが届いた。 『昨日はありがとう。また会いたい。というか、もう会いたい。今すぐ会いたい。涼太くん可愛すぎて仕事に集中できない。助けて。』 「……こいつ」 そう呟きながらも、俺は笑ってしまった。 『仕事頑張れ』 短く返信すると、すぐに返事が来た。 『涼太くんに会えるなら頑張れる。今日も泊まりに行っていい?』 「……やばいだろ、それ」 でも、嫌じゃなくて。むしろ、嬉しくて。 『……好きにしろ』 そう返信すると、また秒で返事が来た。 『大好きだよ!!!!』 「……マジかよ」 画面を見ながら、俺は一人で顔を赤くしていた。 ――こんな恋愛、初めてだ。 でも、悪くない。 むしろ、最高かもしれない。 そう思いながら、俺は小さく笑った。​​​​​​​​​​​​​​​​

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