32 / 34
第32話 雨降って、恋固まる
耳を疑った。今、なんて?
「だから、俺が恋してるのは涼太くんのことだよ」
心臓がバクバク鳴り始める。
っていうか、爆発しそう。
「昨日、“恋してる相手が男”って言ったあと、“それが涼太くんなんだ”って続けようとした。でも、グラス割れて、話が途切れて――」
瑞樹が、悔しそうに唇を噛む。
「そのあと、なんでかわかんないけど涼太くんが怒って。話も聞いてくれなくて」
「ああ……」
俺のせいだ。完全に俺のせいだ。
「だから、一晩中考えた。このまま終わりたくないって。朝になったら、すぐ涼太くんに会いに行こうって」
瑞樹の瞳が、潤んでる。
「え、マジで?」
「マジのマジで! だから来たんじゃん」
「いや、でも、お前――」
言葉が出てこない。
混乱しすぎて頭が回らない。っていうか、完全にパニック。
「昨日、涼太くんに“勘違いした”って言われて、気づいた。もしかして、涼太くんも俺のこと……って」
瑞樹が、恥ずかしそうに視線を逸らす。
「でも、確かめないと後悔すると思って。だから朝イチでご飯買いに行って、そのまま来た」
「……傘も持たずに?」
「うん。涼太くん朝食べてないだろうし……雨とか、どうでもよかった」
「バカかよ」
呆れて笑うと、瑞樹もつられて笑った。
「バカでいいよ。涼太くんに会いたかったから」
その言葉が、胸に染みた。
俺も立ち上がって、瑞樹の隣に座る。
「……俺も」
小さく呟くと、瑞樹の目が見開かれた。
「え?」
「俺も、バカだな。昨日、勝手に勘違いして、怒って――最低だった」
「ううん、俺の言い方が悪かった。ちゃんと最後まで言えばよかった」
瑞樹が俺の手を握る。
まだ少し冷たいけど、温かくなってきた。
「あのさ、涼太くん」
「……うん」
「最初に挨拶した時、可愛い人だなって思った」
瑞樹が真剣な顔で言うもんだから、思わず顔が熱くなる。
「それから涼太くんの人柄知って、だんだん気になってて。真面目で、優しくて、ちょっと不器用で――」
「不器用って言うな」
「でも、そういうとこ好き」
さらっと言われて、心臓が跳ねた。
「ちょっとした会話ですら楽しくて。涼太くんと居ると、なんか安心するっていうか」
「……っ」
「そんで、リョウが涼太くんって知って……もう、完全に落ちた。配信で見てたリョウと、隣に住んでる涼太くんが同じ人って知った瞬間、ああ、俺、本気で好きなんだって気づいた」
瑞樹が、真剣な顔で俺を見つめる。
「だから、改めて」
ブランケットに包まれたまま、必死な顔で。
濡れた髪も赤くなった頬も、全部が愛おしく見える。
「涼太くん、好きです。付き合ってください!」
ドキドキが、止まらない。
「……考えさせて」
「えっ!? この流れで!? ここまで言ったのに!?」
瑞樹がムッとした顔をする。
その顔が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「そんなすぐ決められるかよ……っていうか、状況おかしいだろ。お前ずぶ濡れだぞ」
「関係ないじゃん。濡れてても告白する。っていうか、もうした!」
「熱意はわかったから!」
思わず叫ぶと、瑞樹が少し拗ねたような顔をした。
「じゃあ、いつまで?」
「……今日中」
「今日中?」
瑞樹の目が、パッと輝く。
「じゃあ、今日一日、一緒にいよう! デートしよう!」
「え?」
「だって、もっと俺のこと知らないと、返事できないでしょ?」
嬉しそうに話す瑞樹を見て、俺も笑ってしまった。
「……わかったよ」
「やった!」
瑞樹がにっこり笑う。
「じゃあまず――」
「瑞樹は風呂入れ」
「え?」
「風邪引くぞ。っていうか、もう引いてるかもだけど」
瑞樹の額に手を当てると、少し熱い気がした。
「ほら、やっぱり。早く温まれ」
「じゃあ涼太くんも一緒に入ろ。俺が洗ってあげる」
「は? 本気で言ってんのか?」
「本気。だって、涼太くん、手使えないでしょ?」
包帯を巻かれた俺の指を指して、瑞樹が笑う。
「お互い裸くらい見たことあるし、今さら恥ずかしくないじゃん」
瑞樹がぐっと顔を近づけてくる。
「……っ、バカかよ」
「バカでいい。涼太くんと一緒にいられるなら」
そんなこと言われたら、断れるわけがない。
「……わかったよ」
「可愛い」
「可愛くない!」
「可愛いよ。めっちゃ可愛い」
瑞樹が楽しそうに笑う。
その笑顔を見て、胸がキュンとした。
「……もう知らねえ」
「じゃあ、お風呂で仲直りしよう」
「仲直り……?」
「うん。一緒に入って、いっぱい話そう。涼太くんのこと、もっと知りたいから」
「……ああ」
小さく頷くと、瑞樹が嬉しそうに立ち上がった。
「じゃあ、行こう!」
「お、おう……」
瑞樹の笑顔を見ながら、俺は思った。
もう、答えは決まってる。完全に。
ともだちにシェアしよう!

