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第32話 雨降って、恋固まる

耳を疑った。今、なんて? 「だから、俺が恋してるのは涼太くんのことだよ」 心臓がバクバク鳴り始める。 っていうか、爆発しそう。 「昨日、“恋してる相手が男”って言ったあと、“それが涼太くんなんだ”って続けようとした。でも、グラス割れて、話が途切れて――」 瑞樹が、悔しそうに唇を噛む。 「そのあと、なんでかわかんないけど涼太くんが怒って。話も聞いてくれなくて」 「ああ……」 俺のせいだ。完全に俺のせいだ。 「だから、一晩中考えた。このまま終わりたくないって。朝になったら、すぐ涼太くんに会いに行こうって」 瑞樹の瞳が、潤んでる。 「え、マジで?」 「マジのマジで! だから来たんじゃん」 「いや、でも、お前――」 言葉が出てこない。 混乱しすぎて頭が回らない。っていうか、完全にパニック。 「昨日、涼太くんに“勘違いした”って言われて、気づいた。もしかして、涼太くんも俺のこと……って」 瑞樹が、恥ずかしそうに視線を逸らす。 「でも、確かめないと後悔すると思って。だから朝イチでご飯買いに行って、そのまま来た」 「……傘も持たずに?」 「うん。涼太くん朝食べてないだろうし……雨とか、どうでもよかった」 「バカかよ」 呆れて笑うと、瑞樹もつられて笑った。 「バカでいいよ。涼太くんに会いたかったから」 その言葉が、胸に染みた。 俺も立ち上がって、瑞樹の隣に座る。 「……俺も」 小さく呟くと、瑞樹の目が見開かれた。 「え?」 「俺も、バカだな。昨日、勝手に勘違いして、怒って――最低だった」 「ううん、俺の言い方が悪かった。ちゃんと最後まで言えばよかった」 瑞樹が俺の手を握る。 まだ少し冷たいけど、温かくなってきた。 「あのさ、涼太くん」 「……うん」 「最初に挨拶した時、可愛い人だなって思った」 瑞樹が真剣な顔で言うもんだから、思わず顔が熱くなる。 「それから涼太くんの人柄知って、だんだん気になってて。真面目で、優しくて、ちょっと不器用で――」 「不器用って言うな」 「でも、そういうとこ好き」 さらっと言われて、心臓が跳ねた。 「ちょっとした会話ですら楽しくて。涼太くんと居ると、なんか安心するっていうか」 「……っ」 「そんで、リョウが涼太くんって知って……もう、完全に落ちた。配信で見てたリョウと、隣に住んでる涼太くんが同じ人って知った瞬間、ああ、俺、本気で好きなんだって気づいた」 瑞樹が、真剣な顔で俺を見つめる。 「だから、改めて」 ブランケットに包まれたまま、必死な顔で。 濡れた髪も赤くなった頬も、全部が愛おしく見える。 「涼太くん、好きです。付き合ってください!」 ドキドキが、止まらない。 「……考えさせて」 「えっ!? この流れで!? ここまで言ったのに!?」 瑞樹がムッとした顔をする。 その顔が可愛くて、思わず笑ってしまった。 「そんなすぐ決められるかよ……っていうか、状況おかしいだろ。お前ずぶ濡れだぞ」 「関係ないじゃん。濡れてても告白する。っていうか、もうした!」 「熱意はわかったから!」 思わず叫ぶと、瑞樹が少し拗ねたような顔をした。 「じゃあ、いつまで?」 「……今日中」 「今日中?」 瑞樹の目が、パッと輝く。 「じゃあ、今日一日、一緒にいよう! デートしよう!」 「え?」 「だって、もっと俺のこと知らないと、返事できないでしょ?」 嬉しそうに話す瑞樹を見て、俺も笑ってしまった。 「……わかったよ」 「やった!」 瑞樹がにっこり笑う。 「じゃあまず――」 「瑞樹は風呂入れ」 「え?」 「風邪引くぞ。っていうか、もう引いてるかもだけど」 瑞樹の額に手を当てると、少し熱い気がした。 「ほら、やっぱり。早く温まれ」 「じゃあ涼太くんも一緒に入ろ。俺が洗ってあげる」 「は? 本気で言ってんのか?」 「本気。だって、涼太くん、手使えないでしょ?」 包帯を巻かれた俺の指を指して、瑞樹が笑う。 「お互い裸くらい見たことあるし、今さら恥ずかしくないじゃん」 瑞樹がぐっと顔を近づけてくる。 「……っ、バカかよ」 「バカでいい。涼太くんと一緒にいられるなら」 そんなこと言われたら、断れるわけがない。 「……わかったよ」 「可愛い」 「可愛くない!」 「可愛いよ。めっちゃ可愛い」 瑞樹が楽しそうに笑う。 その笑顔を見て、胸がキュンとした。 「……もう知らねえ」 「じゃあ、お風呂で仲直りしよう」 「仲直り……?」 「うん。一緒に入って、いっぱい話そう。涼太くんのこと、もっと知りたいから」 「……ああ」 小さく頷くと、瑞樹が嬉しそうに立ち上がった。 「じゃあ、行こう!」 「お、おう……」 瑞樹の笑顔を見ながら、俺は思った。 もう、答えは決まってる。完全に。

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