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第二話 未熟
思えば出会いは単純だった。同じ保育園に通っており、その頃からの仲良しだった。
仲良し、というのとは少し違う。瞬介が一方的に、七瀬にチョッカイをかけていた。七瀬はとにかくインドアな子供で、絵本を読んだりお絵描きをしたり、積み木や折り紙で遊んだりと、そんな遊びが好きな子供だった。後から知ったことだが、仕事の忙しい母親に代わり、家では祖母と過ごす時間が長いらしく、自然と大人しい遊びばかりを覚えていたようだった。
そんな七瀬に、瞬介は興味津々だった。小さくて色白で、男のくせに室内遊びばかりを好む七瀬を、どうにかして太陽の下へ引っ張り出したかった。
ある時、七瀬の描いていた絵に、落書きをした。何を描いたのかは覚えていない。七瀬が何を描いていたのかも、覚えていない。しかし、その後取っ組み合いの喧嘩になったのは覚えている。髪を引っ張られたり噛み付かれたりして、泣かされたのは瞬介の方だった。七瀬は決して泣かなかった。
父に連れられ、菓子折りを持ってお詫びに行った。七瀬の家を訪れたのは、それが最初だった。先に手を出されたとはいえ、七瀬が一方的に瞬介を泣かしたものだから、あちらの保護者も腰を低くし、頭を下げていた。
「ねぇ。お外でどろだんご作ろうよ」
そんな騒動の後、ある日の自由時間。瞬介は七瀬を遊びに誘った。何か伝えたいことがあるのなら、まずは言葉にしてみなさい、と父に教えられた。
「ねぇ。たのしいよ? ぴかぴかだよ? しゅうちゃん上手につくれるの、見せてあげる」
「……ナナの方が、上手だもん」
一旦外遊びを覚えると、七瀬は驚くほど活発に遊んだ。かけっこ、木登り、砂遊びに水遊び、もちろん園庭の遊具でも。互いに負けず嫌いな気質であり、どんな遊びも最終的には勝負になることが多かった。危険だからと先生に叱られても、やめられなかった。
保育園から帰った後も、家が近所だったこともあり、その辺の空き地や原っぱで飽きるまで遊んだ。いや、決して飽きはしなかった。日が暮れると七瀬の祖母が迎えに来るので、瞬介も仕方なく家に帰っていた。できることなら、寝る間も惜しんで遊びたかった。
小学校に上がると、瞬介の父が営むそろばん塾に七瀬が入塾し、そのために二人は一層親しくなった。もちろん、そろばんでも競い合った。
「あン時は、お前に勝ち逃げされたからなぁ」
使用済みのコンドーム。口を結んでティッシュに包み、ゴミ箱に投げ入れた。ゴムとティッシュで、ゴミ箱は常にいっぱいだった。
「……なんの話だよ」
ベッドに身を横たえていた七瀬が顔を上げる。前髪が汗で張り付いていた。
「そろばんの話。小六ン時、お前だけ先に一級合格したろ? それまでは一緒に進んでたのによ」
「……お前だって、後から合格したじゃねぇか」
「けどさ~、その間にお前は初段まで行っちゃって、そんで卒業しちゃったじゃん? もっと続けてりゃ、きっと俺が勝ったのによ」
「ふん。だったら、一人で続けてりゃよかったろ」
「それはさぁ……」
お前がいないんじゃ、張り合いがなくて続かない。とは口が裂けても言えなかった。本心を誤魔化すように、瞬介は七瀬の上へ圧し掛かる。
「……おい」
「ん~?」
「今しただろ」
「こっちでも勝負してみようぜ」
「……ああ?」
七瀬は怪訝な顔をするが、瞬介は構わずに続ける。
「先にイかせた方が勝ち。どうよ。自信ねぇ?」
既に欲を吐き出した後で、くたりと萎れた一物を、瞬介は七瀬の面前にずいと突き出した。七瀬は、ぎろりと上目遣いに瞬介を睨んだが、恐る恐る口を開いて、突き出されたそれにゆっくりと舌を這わせた。
「うあ……」
自分から仕向けたくせに、思わず腰が引けた。瞬介が漏らした情けない声に、七瀬は耳聡く気づく。にんまりと笑って、あえて舌を見せつけるようにしながら、瞬介のそれを口いっぱいに頬張った。
内側から火をつけられたように、腰が熱を帯びる。萎えていたはずのそれは、あっという間に大きくなった。伏し目がちに睫毛を震わせながら、小さな口いっぱいに瞬介のものを咥える七瀬の姿に、どうしたって興奮した。
喉を突くように腰が動いてしまうと、七瀬は苦しげに眉を寄せて、瞬介を見上げた。それでも、口淫をやめようとはせず、裏筋をくすぐるようにして舌を這わせ、熱い唾液を纏わせて吸い付いてくる。
たまらず、七瀬の頭を両手で掴んだ。流れるような黒髪を指に絡ませて押さえ込む。ゆるりと腰を引き、奥へと挿し込み、喉を捏ねる。七瀬は、眉間に皺を寄せながらも、瞳を好戦的に輝かせて、瞬介の狼藉を受け入れた。
腰が動く。まるで性行為と変わらない。七瀬の口を膣に見立て、自分勝手に腰を振る。激しく突いてはいけないと、頭の片隅では分かっているのに、体が言うことを聞かない。それどころか、瞬介の意思を飛び越えて、勝手に動く。子宮を突くように喉を突いて、舌を擦って、上顎を擦って、唇を捲れ上がらせる。
「ううッ……!」
一番深いところまで咥え込ませた。喉の奥に、堪え切れなかった精を放つ。既に一度交わった後だというのに、大量に吐精した。七瀬の喉に当たって跳ね返る、そんな感触まで伝わってきた。
長い射精を終えると、七瀬の頭を押さえ込んだまま、二度、三度と腰を揺すり、精液を撫で付けた。それからゆっくりと腰を引き、性器を引き抜く。ぬぽんっ、と淫猥な粘着音が響き、飲み込まれなかった白濁がどろりと溢れて、七瀬の唇を汚した。
一瞬、腹の底が冷たくなった。酷く恐ろしいことをしてしまったように思え、自分で自分が怖くなった。
けれども、七瀬の瞳には、好戦的な炎がいまだ宿ったまま。赤い舌を覗かせて、汚れた唇をぺろりと舐める。
「おれの勝ちだ」
それは、紛うことなき勝利宣言。瞬介はまたしても勝負に負け、それ以外のところでも、七瀬に完敗した。
「ま、まだまだ!」
だが、そう簡単には負けを認められないお年頃。今度は瞬介が、七瀬の股座に顔を埋める。体を反転させ、七瀬の顔の方へ下半身を持っていくようにすると、足元から咎めるような声が響いた。
「何だよ、このふざけた恰好は。ケツ向けてくんな」
「知らねぇの? 七瀬って結構箱入りだよなぁ」
「んだと」
「これはねぇ、お互いに気持ちよくし合える体位です」
七瀬の、緩く芯を持ち始めていた性器にしゃぶり付いた。唾液を絡めて吸ってやれば、みるみるうちに大きくなる。
「ほら、七瀬も。俺のしゃぶって」
「てめっ、今イッただろ……!」
「まだ全然余裕だから。もう復活してるし。分かるだろ?」
「っ……」
腰を揺すると、七瀬の眼前で性器が揺れる。七瀬は一度舌打ちをし、口内にそれを招き入れた。
所謂シックスナインである。男同士、高校生で、色々な手順をすっ飛ばし、妙なプレイまでするようになってしまった。
固く張り詰めた性器を頬張り、唾液と我慢汁とを絡めて舐める。二人分の水音が重なって聞こえた。お互いが干渉し合い、波紋のように広がっていく。
「ンぁ……っ」
性器を刺激しながら、後ろの穴にも指を入れてみる。七瀬はびくりと腰を浮かした。「反則だろ」と足元から声がするが、気にしない。
「おい、っ……聞けよ!」
「ケツがダメなんてルール、一言も言ってませんけど? 先にイかせりゃいいんだも~ん」
「てめ、こすいぞ」
「なにが? ほらほらぁ、よそ見してっと、すぐイかされちまうぞ」
「やっ、んんん……っ!」
瞬介にしがみつくようにして、七瀬は身を捩った。どうにかして腰を逃がそうと藻掻いているのは伝わってくるが、瞬介とてそう簡単には逃がせない。しっかりと押さえ込み、捕まえておく。
既に一度交わっているために、穴はどろどろにぬかるんでいる。ローションやら体液やらを絡ませながら、指でぐちゃぐちゃ掻き回す。ナカへの刺激に呼応するように、頬張ったものがピクピク震えた。粘りのある液体がとろりと溢れてくるので、それを一旦舌で受け止めてから、性器にねっとりと撫で付けてやる。
「はっ、んぅ……っ」
七瀬は、意地でも瞬介のものを握りしめたまま、かろうじて舌を這わせてくるが、その唇は、ほとんど喘ぎ声ばかりを漏らしている。与えられる快楽にばかり気を取られ、相手を責めることを忘れている。
挿し入れる指の本数を増やしてみても、ぐっしょりと濡れた七瀬のそこは、抵抗もなく呑み込んでくれる。根元までしっかりと咥え込ませて、前立腺と呼ばれる性感帯を圧迫しながら、奥を掻き回した。潤んだ肉襞が痙攣し、食むようにきつく締め付けてくる。
「ン、ッう…っ、あっ、あ……っ」
もはや膝も立たない。快楽に浮かされた七瀬の体が沈んでくる。瞬介の上で腹ばいになって身悶える。汗の滴る肌がぴたりと密着する。喉の奥まで入り込んだものが、小刻みに震えて限界を訴える。
「も、ッだめ……! いく、イクっ────ッッ!!」
喉の奥に粘液が迸った。灼けるように熱く、絡み付くほど濃厚だった。これが七瀬の味だ。苦いばかりで、美味くはなかった。それなのに、なぜだかもっと欲しくなった。グラスの底に残ったジュースを吸い上げるように、音を立てて吸ってやると、七瀬はガクガクと腰を震わせ、泣き叫ぶような声で喘いだ。
荒く息をし、力なく痙攣を繰り返す七瀬を、再びベッドに転がす。瞬介が覆い被さると、さすがに怯んだような目をした。
「いま、いっ……」
「まぁでも、俺はイッてないし?」
「ふざ、け……」
「俺の勝ちってことで」
「やめっ、やッ、あっ、ああ゛ッッ……!」
誘うようにヒクつく蕾に、臨戦態勢の己をねじ込んだ。お互い一回ずつイッたんだから引き分けだろうとか、そもそもおれは負けてないとか、そんな悔しそうな目で睨んでくる七瀬だが、軽く奥を突いてやれば、後はもうシーツの海を泳ぐばかりだ。両足を瞬介の腰に絡めて、抱きついてくる始末である。
こんな自分はまさに猿だと、瞬介は自嘲する。自覚しているのにやめられない。よちよち歩きの頃から知っている幼馴染の体を貪ることをやめられない。
七瀬がそばにいてくれるからだ。拒んでいるように見えて、その実全てを受け入れてくれるから、ただそれに甘えている。けれども、七瀬が本当はどう思っているのかなんて、瞬介には何一つ分からないのだ。
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