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第2話 古い倉庫×光の差し込み

* 「ここ、は……?」 錆びた匂いのする、古い倉庫。 もう使われていないんだろう。中はガランとしていた。 天井付近にある小さな窓から光が差し込み、テーブル代わりのケーブルドラムや二人掛けのソファ、簡易的なシングルベッドが壁際の方に纏まって置かれている。 「集会所のひとつ、かな」 「……」 「女連れ込んで、ヤっちゃう奴もいるけどね」 薄暗がりの中、玲音がクスッと笑う。 「実は昨日、総長就任式が行われてさ。俺、六代目になったんだよね」 「……」 「だからさ、お祝いしてよ」 そう言った玲音の表情が変わり、目付きが鋭くなる。 「柚の全部を、俺に頂戴?」 ……え…… 先程までとは違う、酷く濁った眼。 捉えられたまま、もう目を逸らせない。 「……覚えてるよね。 小学生の頃、遊びに行ったゲーセンで、怖い人達に囲まれてカツアゲされた事。 あの時助けに入った人が、三代目“black-Fairies”の総長」 「……」 「その時のお前、蹴散らす兄貴をカッコイイなんて言って。頬まで赤く染めて、奴を特別な目で見てたよな」 コツ…… 一歩、僕を見据えたまま迫る。 「悔しかったなぁ。その目を向けていいのは、俺だけなのに」 「……!」 コツ、コツ…… 見据えたまま後ずさりすれば、膝裏にベッド端が当たって尻餅を付く。 「そんなに怯えるなよ、柚。 これからは、俺がお前を守るからさ──」 トンと押し倒され、玲音の顔に影が掛かる。 胸元のボタンを外した玲音の指先が、愛おしむように僕の鎖骨をなぞる。 「……痛いのは最初だけ。あとは快楽だけを、教えてあげる」 その指が首筋を撫で、僕の顎先をクイと上げると、玲音の顔が近付いて震える僕の唇を塞ぐ。 はぁ、はぁ、はぁ…… 揺れる光。滲む視界。 ずっと……疑問に思ってた。 どうして突然、暴走族なんかに入ったんだろうって。 涙が溢れ、皮肉にも輝きを増していく光。 こんなの、望んでなかった。 玲音とはただ、昔みたいな関係に戻りたかっただけ── 「……柚」 ベッド端に座り紫煙を燻らす半裸の玲音が、振り返って僕の顔を覗き込む。 「可愛いかったよ、俺の柚」 手を伸ばし、涙で濡れた僕の頬に触れる。 「……」 僕の知ってる、玲音じゃなかった。 それでも……前の僕だったら、嬉しかったのかな。 「もう、誰の目にも触れさせない。……ずっと、俺だけを見てろよ」 ふぅ、と煙を吐いた後、僕の首筋に顔を埋める。リップ音を立て、もう何個目か解らない赤い印を刻む。 僕が絶望の淵にいる事など、お構いなしに。 バンッ── その時、開く筈のない扉が勢いよく開いた。

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