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第4話 駅×忘れ物

祐とは、高校に入学してすぐに仲良くなった。 席が前後だった事もあったけど。優しそうな雰囲気を纏っていて、気さくに話し掛けてくれて。ボッチだった僕にとって、祐はまるでお兄ちゃんのような存在だった。 「祐、帰ろうぜ」 「これから皆で、駅前のカラオケ行かね?」 「いいね! いこいこ!」 放課後になると、決まって祐の周りに人が集まる。祐は誰に対しても分け隔てなく接していて、いつも笑顔を絶やさないからなんだと思う。 「柚も、行こうよ」 サラリと前髪を揺らし、優しい口調で僕を誘う。その笑顔を向けられる度、胸の奥がほわっと温かくなる。 本当は、祐と一緒にいたい。でも、そんな事言ったら、きっと祐を困らせてしまうだけだから…… 「……うん」 門を出た所で、塀沿いにバイクを停めた人影が見えた。 ひと目見て、息をのむ。 「……ごめん、祐。忘れ物、したみたい」 心臓が、止まってしまったかのよう。 やっとの事で喉奥から声を絞り出すと、祐の陰に隠れながら校舎に向かって走る。 嘘だ…… 特攻服を身に纏っていたのは──玲音だった。 小さい頃から親戚の集まりで、玲音とはよく一緒に遊んだ。ひとつしか年は変わらないのに、何でも知っていて。綺麗な泥だんごの作り方とか、ザリガニやトンボの捕まえ方とか、よく僕に教えてくれた。少し大きくなってからは、不良が屯するようなゲーセンに堂々と入って行ったりして。そんな姿が、僕には眩しかった。 「柚!」 僕は、中学で失敗しちゃったから。誰も知らない高校に行って、いちからやり直したかった。 でも、そんな希望を抱いても、引っ込み思案な僕には無謀すぎて。親戚の集まりが減り、疎遠になってしまったけど。せめて玲音のいる高校だったらと思い直し、この学校を選んだのに。 「何で逃げるの?」 玄関に入ろうとした所で、後ろから呼び止められる。 「俺が、族に入ってたから?」 「……」 「人なんて、離れてる間に変わるよ」 近付く足音。振り返れずにいる僕の肩に、玲音の手が置かれる。 「柚も、前より可愛くなったね」 肩越しに囁かれ、ゾクッと身体が震える。 「バイク、乗った事ある?」 「……」 「乗ってみようよ。後ろ、結構気持ちいいんだよ」 玲音の、甘い声。 僕の知らない事を知ってる、玲音からの誘い。 見た目は変わっても、玲音の本質は変わってないのかもしれない。 「……うん」 そう思ったら、断る理由なんてなかった。

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