4 / 5
第4話 駅×忘れ物
祐とは、高校に入学してすぐに仲良くなった。
席が前後だった事もあったけど。優しそうな雰囲気を纏っていて、気さくに話し掛けてくれて。ボッチだった僕にとって、祐はまるでお兄ちゃんのような存在だった。
「祐、帰ろうぜ」
「これから皆で、駅前のカラオケ行かね?」
「いいね! いこいこ!」
放課後になると、決まって祐の周りに人が集まる。祐は誰に対しても分け隔てなく接していて、いつも笑顔を絶やさないからなんだと思う。
「柚も、行こうよ」
サラリと前髪を揺らし、優しい口調で僕を誘う。その笑顔を向けられる度、胸の奥がほわっと温かくなる。
本当は、祐と一緒にいたい。でも、そんな事言ったら、きっと祐を困らせてしまうだけだから……
「……うん」
門を出た所で、塀沿いにバイクを停めた人影が見えた。
ひと目見て、息をのむ。
「……ごめん、祐。忘れ物、したみたい」
心臓が、止まってしまったかのよう。
やっとの事で喉奥から声を絞り出すと、祐の陰に隠れながら校舎に向かって走る。
嘘だ……
特攻服を身に纏っていたのは──玲音だった。
小さい頃から親戚の集まりで、玲音とはよく一緒に遊んだ。ひとつしか年は変わらないのに、何でも知っていて。綺麗な泥だんごの作り方とか、ザリガニやトンボの捕まえ方とか、よく僕に教えてくれた。少し大きくなってからは、不良が屯するようなゲーセンに堂々と入って行ったりして。そんな姿が、僕には眩しかった。
「柚!」
僕は、中学で失敗しちゃったから。誰も知らない高校に行って、いちからやり直したかった。
でも、そんな希望を抱いても、引っ込み思案な僕には無謀すぎて。親戚の集まりが減り、疎遠になってしまったけど。せめて玲音のいる高校だったらと思い直し、この学校を選んだのに。
「何で逃げるの?」
玄関に入ろうとした所で、後ろから呼び止められる。
「俺が、族に入ってたから?」
「……」
「人なんて、離れてる間に変わるよ」
近付く足音。振り返れずにいる僕の肩に、玲音の手が置かれる。
「柚も、前より可愛くなったね」
肩越しに囁かれ、ゾクッと身体が震える。
「バイク、乗った事ある?」
「……」
「乗ってみようよ。後ろ、結構気持ちいいんだよ」
玲音の、甘い声。
僕の知らない事を知ってる、玲音からの誘い。
見た目は変わっても、玲音の本質は変わってないのかもしれない。
「……うん」
そう思ったら、断る理由なんてなかった。
ともだちにシェアしよう!

