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第5話 屋上×プランター

校門に戻ると、もう皆の姿はなかった。 あの場でどんな話がされたんだろう。気になったけど、なるべく考えないようにしながらヘルメットを被る。 ドゥルルンッ、 思ってる以上のエンジン音に驚いたけど、平気。玲音にしがみついていれば怖くない。 いつの間にか大きくなった玲音の背中に頭を預け、校舎を見る。 屋上に掛かる、切ないほどの夕焼け。 ──あのね、玲音。 僕が玲音に抱いてる感情は、おかしいんだって。 最初は同じクラスから。そのうち学年に広がって……僕に近付くと、惚れられちゃうからって、避けられるようになった。 それで──死のうと思ったんだ。 放課後の屋上に上がって、こんな夕焼けを見ながら…… でも、できなかった。 何も植えられていない花壇の周りに置かれたプランターに、綺麗な花が咲いてたから。 ……ほんと、臆病だよね。 ギュッと玲音に回した腕に力を入れれば、トントンと。僕を励ますように叩いてくれる。 大丈夫。 もう二度と、あんな思いはしない。 この先誰を好きになっても、その思いを封印するから。 ──そう、思ってたのに。 「おはよ、柚」 翌日。事情を知る人達がよそよそしい中、祐は変わらない笑顔で声を掛けてくれた。 僕を見る祐の瞳は、真っ直ぐで。 優しくて。綺麗で。 昔、ゲーセンで僕と玲音を助けてくれた、あのお兄さんの瞳によく似ていて。 だから、少しだけ期待しちゃった。 祐ならきっと、僕自身を見てくれる。 僕のことを、ちゃんと解ってくれるんじゃないかって。 ……だからね、祐。 僕の事は好きじゃなくてもいいから……また間違いを起こしそうになったら、止めてね。 あの時見た、プランターの花みたいに。僕を─── 「……解ってないな、柚」 サラサラサラ…… 傘を優しく叩く雨音が、微かに聞こえる。 「俺が、三代目総長の“弟”だって事──」 心地良い背中から響く、祐の呟いた声。 不意に揺れが止まり、トンッと僕を跳ね上げる。 「ほら、傘。ちゃんと持って」 「……ん」 そっと握り直される傘の柄。 これが夢なのか、現実なのか……もう、よくわかんない。 でも、祐の温もりを感じていたいから。 もう少しこのまま……幸せな気持ちでいさせて……

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