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第20話 ミチは励まそうとしてくれただけなんだろうけど
海の家で食べるカレーは格別だ。
なのに、俺は涙を流している。子どもの頃の思い出の海の家が、二年前に廃業したと聞いた。
「うぐぐ……。そんなぁ」
「泣くな、ほとり。俺も焼いたイカのカレー、見てみたかった」
ミチが頭を撫でてくれる。
白いパラソルが突き刺さった白いテーブルが並ぶウッドデッキで、俺は焼きトウモロコシを齧っていた。
俺もミチも水着に上着を羽織っただけ。大体他の人もそんな装いだ。
甘いトウモロコシと醤油の焦げたところがマッチして美味しい。
ミチの前にはラムネ。水分なら摂取できるようで、かき氷も注文していた。
「ほら。俺のかき氷、一口やるから」
泣いている俺を見かねたのか、プラスチックのスプーンに氷とサイコロ状のマンゴーを乗せ、口元に持ってきてくれる。
「……」
あーん、をされろと?
相変わらずちらちらと見られるが、俺は口を開けた。
ミチはゆっくりと口内に入れてくれる。口を閉じると、冷たい氷と甘いマンゴーのシロップ。スプーンが口から抜かれ、咀嚼するとマンゴーの果肉は柔らかくてうまい。
「……おいしい」
「もう一口どうだ?」
「もういいです」
両手で顔を隠す。
きゃあきゃあと明るい声と「ホモかよ」というセリフが交互に聞こえてきてしんどい。
ミチはその一切が耳に届いていないようで、俺ばっかりを見ながらくぴっとラムネを傾ける。ラムネを飲んでいるだけで絵になるな。
「ラムネもうまいぞ。飲む?」
背もたれに身体を預け、長い足を無造作に組んでいる。
「飲まない。口に合ったならよかったな。かき氷も、溶ける前に食べなよ」
「溶けたかき氷に用がある」
「溶ける前に食べるものなのに……」
イイ感じに焦げたトウモロコシを食べていく。人が多いので、長々と席を陣取っているのも申し訳ない。
「なあ。マンゴーの実はいらないから食べてくれ」
固形物に用は無いんですね。
「いいよ。置いときな。食べるから」
「ありがとう。ほとり」
ミチが薄くほほ笑むと、後ろの席から咳き込む音が聞こえた。ほら~。不用意に微笑むから実害が出てるだろ。
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