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第21話 夕暮れ

 泳いでは休憩してまた海に入る、を繰り返したがまったく泳げるようにはならず。後半は俺の泳ぎを教えるのがメインになってしまっていた。 「今日だけで、っ、二キロは痩せた気がする……」 「はあ。それは大変だ。帰ったらカロリーの化け物でも食べると良い」  シートの上で倒れている俺と、両足を投げ出して座っているミチ。カロリーの化け物ってなんですか。 「ごめ……ありがとうね? 泳ぎに、練習に付き合ってくれて」 「いや。俺も楽しかった」  パーカーを絞り、邪魔くさいのかシートの上に放っている。 「そろそろ帰るか……」  空を見て呟くミチに、俺はがばっと顔を上げた。 「もう帰っちゃうの⁉」 「ん? ほとりの家に、帰るか、という意味だ」 「……」  ミチのパーカーを頭に被せ、顔を隠す。 「俺に帰ってほしくないのか?」  苦笑しているような声がして、ぽんぽんと背中を叩いてくる。 「いきなり、帰っちゃうのかなって、焦っただけだよ……」 「そんな薄情なことはせん。帰るときはきちんと、ほとりに言うから」  ミチが手を握ってくる。  俺は迷わず握り返した。  温かくも冷たくもない手のひら。パーカーをずらし、ミチの表情を窺う。  俺を見て、やさしく笑っていた。  疲れもあり、電車の中で眠ってしまう。ミチの肩にもたれて。  乗り継ぎの駅で起こされ、やっていた電車に乗り込む。今度は座れなかったが、ウトウトしている俺をミチがさりげなく支えてくれていた。俺が保護者のつもりだったのに。逆転してしまっている。  降りる駅に近づくにつれ、電車の中が閑散としてくる。  俺たちは並んで腰かけた。  夕陽に照らされた街並みは影絵のように黒く、右から左へ流れていく。  眩しさに目を細め、俺はそれをぼーっと眺めていた。

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