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第27話 赤髪編  拐われたほとり

ーーー  スーパーの帰り道。道を塞ぐように黒のバンが急停車した。 「あっぶね……」  ぶつかりそうだったことにイラつきながら自転車を下りる。道は塞がれているが、自転車を押しながら慎重に行けば通れそうだ。  今だから言えるが、この時の俺はスーパーに引き返すべきだった。  黒いバンから黒服の男たちが降りてくる。 「は? え?」  取り囲むと口を塞がれた。手も縛られ、バンに押し込まれる。持ち主が無くなった自転車が倒れ、エコバッグから食材や生活用品が道に撒かれる。  男の一人が目につかないようにと、自転車をガードレールの向こう。崖下に投げ捨てる。  一瞬の、出来事だった。 「……」  目隠しまでされた俺が連れてこられたのは、どこかの地下だろうか。階段を下りたのは覚えている。  目隠しを外されても俺の目は虚ろで、力無くソファーにもたれている状態だ。  誰かが、俺の頬をするりと撫でた。 「おーい。まだ喋れる状態じゃねぇじゃーん。薬、強かったんじゃないのぉ?」 「も、申し訳ありません」 「自転車に乗っていたので、呼吸量が多かったのかと……」  口と鼻に当てられた布。何かが染み込ませてあったのか、強烈なにおいがした。と同時に瞼が下り、頭が働かなくなる。  で、気がつけばこんな場所にいたのだ。  赤髪の男が顎を掴むと、顔を覗き込んでくる。 「……」 「へぇ。可愛いね。この状態で悪戯したら、どんな反応するかな?」  ナイフを取り出すも、俺は恐怖することもできなかった。  刃先が滑り落ち、服を裂く。薄着一枚だった俺の肌が露わになる。 「うーん。高校生……いや大学生くらいかな? はあ。ガキは好みじゃないわ」  どすんと俺の横に座ると肩を組んでくる。片手でナイフを弄ぶ。抱き寄せられ、俺は赤髪の男にもたれるかたちになった。  香水の、においがする。  乗り気じゃなくなった赤髪の反応に、周囲の男たちがニヤけ出す。 「じゃあ、俺たちが遊んでやってもいいっすか?」 「ああ?」  赤髪のイヤリングがきらりと光る。 「だーめ」 「そんな!」 「独り占めはずるいっすよ!」  赤髪は腰を上げると、シンプルにサングラス男を殴った。巨体が華麗に宙を舞う。 「――ぶはぁ‼」  机を巻き込み、サングラス男はひっくり返る。周囲の男たちはビシッと整列した。  赤髪は白手袋を捨てると、予備の手袋を装着した。すぐにスーツも整える。 「駄目って言ったじゃ~ん? お前らすぐ壊すんだもん。……この子はベッドに寝かしておいて。ついでに足も縛っといて」 「ハイッ!」  怯えた雰囲気の男たちが一斉に頭を下げた。  「よろ~」と手を振りながら、赤髪は王のように退室していく。  俺はそっと抱えられるとシーツの上に横たえさせられる。赤髪のパンチが利いたのか、俺に手を出してくる者はいなかった。 (……ミチ)  帰るの、遅くなりそうだ。  のんきにそんなことを思いながら、目を閉じた。

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