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第28話 赤髪編  異変

 ほとりの部屋でお茶を味わっていると、何者かが突撃してきた。どたどたと廊下を走る音がする。 「おい! イケメン野郎! 居るか⁉」 「んー?」  顔を識別する。確かほとりの、友人の可愛斗(きゅうと)だったか。 「お茶飲む?」 「いらん‼ な、なあ、ほとりは?」 「買い物」  靴のまま上がり込んできた可愛斗が腕を掴んで引っ張ってくる。 「なんだ?」 「ほとりの自転車が‼ 崖の下にあるのはなんでだよ! お前、何か知らないか⁉」  崖、下……?  さぁっと血の気が引いた。  今度は俺が可愛斗の襟を掴むと家を飛び出す。 「ああああああ!」  悲鳴だけを置き去りにし、木から飛び降り道路に着地した。買い物の時、よく通る道だ。 「どこで見た?」 「……あっぢ」  目を回しながらも、可愛斗は指を差す。ガードレールに手をついて身を乗り出してみる。茂みで見えにくいが、ほとりの自転車の一部が見えた。 「……君、これをよく発見できたな」 「ほとりはこんな、ゴミを茂みに捨てる奴じゃない。ほらこれ、ほとりのエコバッグ。道路に落ちてたんだ」  俺はそれを引っ手繰った。まじまじと見つめる。  ひよこが「PIYO」と鳴いているエコバッグ。ほとりが愛用している物だ。 「「……」」  俺たちは互いに顔を見合わせた。 「ガードレールは凹んでないから、ぶつかって崖下に、落ちたわけじゃなさそうだけど。俺! 下から見――」  走り出そうとした可愛斗を小脇に抱えると、ガードレールを跳び越えた。 「てくるあああああああ!」  茂みの枝で傷つかないように可愛斗を庇い、腐葉土の斜面に降り立つ。へし折った枝が降ってきたが手で払いのける。 「ほとり!」  大声を出すも、返事はない。 「ほとり? 俺だ! どこだ? いるんだろ?」  可愛斗も声を張り上げ、茂みの中を探す。  時刻は夕方を過ぎようとしていた。  夏とはいえ、ちんたらしていてはじきに暗くなってしまう。 「どうしよう。警察呼ぶか?」  スマホを持つ可愛斗の指は傷だらけだった。人間が茂みの中を素手でかき分ければこうなる。 「君は帰って手当てしてこい」 「ふざけんな! ほとりの無事が分かるまで呼吸できねぇわ!」 「……ルンバさん、来てくれ」 『お呼びでしょうか。ミチ様』  黒いルンバが背後に現れる。「え、なに?」と、可愛斗はハテナを浮かべて眺めてきた。 「ほとりがどっか行った。この道で何があったか、俺に見せてくれ」 『かしこまりました』  ルンバは崖をうぃーんと登り出す。  俺は可愛斗を抱え、一足飛びで道路に戻った。 「お、お前、何者だよ」  高いところが苦手だったのか、まだ俺にしがみついている。 「名乗らなかったか?」 「そうじゃなくて……!」 『お待たせしました。それでは再現します』  追い付いたルンバがライトをつけ、道路の一部を照らす。 「な、なにが……」 「黙って見ていろ」  光のなか、自転車に乗ったほとりが走ってくる。半透明で透けているので、可愛斗もこれが映像だと分かったようだ。食い入るように見つめる。  ほとりの前に黒い車が停車し、出てきた男たちが、ほとりを…… 「「……」」 『以上です? 再生しますか?』  愕然とし、俺と可愛斗は言葉を失った。  ほとりが連れて行かれた。まだ、崖に落ちた映像が映ってくれた方が、幾ばくかマシだったかも知れない。 「ゆ、誘拐⁉ 嘘だろ?」  ほとりが平和な国だと言っていただけあり、可愛斗の狼狽え方は尋常ではなかった。 「け、警察に!」  何度もスマホを落としそうになりながら、警察につなげようとする。  その時、かすかにバイクの音が聞こえた。  速度を出し、人がいるのにまっすぐにこちらに向かってくる。 「……変だな?」  ルンバと可愛斗を掴むと紙一重で避けた。 「うおおっ」  気付いていなかったのか、可愛斗の手からスマホが落ちる。カッとコンクリートの上を跳ねるスマホ。バイクは道路の真ん中で停止すると、俺に向けて銃を構えた。  黒のライダースーツにフルフェイスヘルメットが青瞳に映る。 「――は?」  ドンッ。ドンドンッ。  複数の銃声が、響き渡った。

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