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第30話 赤髪編  銃声

♢  銃弾が発射される。  可愛斗の頭を押さえ込んで庇った。こんな、茂みを捜索しただけで血が滲んでいる生き物を放置しておけない。それに俺はそこそこ不死身だ。ならば、俺が庇ってやるべきだろう。身体が飛び散ってもまた集めればいい。 「……っ」  きつく目を閉じたが、衝撃が身体を襲うことはなかった。 「?」  薄目を開けると、ルンバさんが傘になって銃弾を防いでくれていた。  驚いたのか、銃を持つ手が揺れる。 「何だあれは……」  フルフェイスヘルメットの奥からは、男とも女ともつかない、くぐもった声がした。  バイクの人物は銃をホルダーに仕舞うと、舌打ちしながらハンドルを握る。  逃走する気だ。  どこかへ行ってくれるのならそれでいい。俺はホッと息を吐いたが…… 『攻撃を確認。戦闘モードへ移行します』 (あ、やば)  ルンバに戻ったルンバさん。俺の主はやる気だ。それもそのはず。狙われたのは俺。これは人間で例えるなら、飼い主の前で猫を傷つけようとしたのと同じこと。  はるか上空宇宙にて。  インビジブルモードで停船中の母船がゆっくりと向きを変える。  搭載されている無数の砲弾の中で、一番細長く小型のものが光線を発射した。  空を引き裂き、雲に丸い穴を開け、光線はバイクの後輪を撃ち抜く。 「なんっ」  衝撃でバイクは飛び上がり、乗っていた人物はコンクリートの地面に叩きつけられ、数メートル転がった。 「……っ。……ぐぅ」  少し離れた道路の上に、派手な音を立ててバイクが落ちる。フルフェイスヘルメットの人物は起き上がろうとしたが。  ルンバさんがその人物に向かって、ぷしゅーっと蜘蛛のように糸を吐く。 「ぬ? なんだこれはあああ」  叫び声を残し、謎の人物は繭に囚われる。俺の星にいる生物が使う糸を再現したものだ。地球上にあるものすべてを使っても、切断はできない。 「くそおおお! 離せぇ――――」  一分後。道路に成人男性サイズの卵状の繭がごろりと転がる。 『通常モードに切りかえます』  気が済んだのか、ルンバさんはうぃーんと家に戻って行く。 「待て。もう暗くなるし、バイクを置いていくと事故が起こるかもしれない。関係ない人が怪我するのは嫌だ。何とかできないか?」 『かしこまりました』  緑の光を発する。その光に照らされるとバイクがどんどん縮んでいった。最終的に、手のひらサイズのフィギュアのようになる。  俺はそれをポッケに押し込む。 「ありがとう」 『どういたしまして』  可愛斗と繭を担いで帰宅する。

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