32 / 67

第32話 赤髪編  傀儡人形

「止まれっ」 「ここは立ち入り禁ッ⁉」  サングラス男たちを扉ごとぶち抜く。へし折れた扉は室内の壁に突き刺さる。  黒服の男たちを踏みつけて、薄暗い室内に入り込んだ。 「邪魔するぞ」  ほとりが連れて行かれた場所を訊き出した後、フルフェイスヘルメット男は川に流しておいた。川に洗濯にきたおばあさんあたりが拾ってくれるだろう。  ルンバさんは同行しようかと言ってくれたが断った。地震や噴火よりも、主がキレた方が手に負えん。  広くない室内では赤髪の男が酒を呷っていた。長い足を組み、ファーのついたコートを羽織っている。 「いらっしゃい。頭吹き飛ぶかと思ったよ」  赤髪の男の肩より長い髪の毛が数本落ちている。吹き飛ばした扉が掠ったのだ。直撃すれば良かったのに。  その隣には、ほとりが腰かけていた。 「ほとり……。ほとり!」  女を侍らすように、赤髪はほとりを抱き寄せて。  俺が声をかけても反応しない。 「……っ」  無性にイラっとした。ほとりに、ではない。気安く触っている隣の野郎にだ。  ほとりには、彼が選ばないであろう上等な服を「着せられて」いる。唇にはリップグロス。手には指輪。耳にはイヤリングが揺れていた。どれも高価なものだろう。そんなことよりイヤリングでなくピアスだったなら、問答無用で殺してやったが。ほとりの身体に怪我はない。 「ほとりを返してくれ。そうすれば関節を逆に曲げるだけで許してやる」 「全然許してねーな。君が『ミチ』くん、かな?」 「……え? ああ。なんで名前を……」  赤髪はニヤリと目を細める。やけに愉しそうだが、ほとりのような爽やかさも愛らしさも何もない。底冷えするような、冷たい瞳の光。 「お前の笑顔を見ても嬉しくない。笑うな」  赤髪は目を点にした。肩にかけたコートがするっとずれる。 「急に(言葉で)ぶん殴ってくるじゃん……。やめな? 余裕のない男は嫌われるよ?」  嘲笑を浮かべ、ごつい指がほとりの柔頬を撫でる。  なんだろうか。この、脳が破壊されそうな感覚は。 「ほとりはそんなことで俺を嫌ったりしない。そんなことも知らないなら返してくれ。お前には勿体ないし吊り合わない」  一歩進むと、男が手で制止した。 「ストップ。こっちこないでそこに座って」  顎で対面のソファーを示す。 「なんで?」 「素直に聞いてくるね……。ほとりくんは俺の言葉にだけ反応するようにしてあるから。俺の言うことは聞いた方が良いよ?」 「……? だからどうした」  赤髪は首を傾げる。 「あれ? 伝わらない? 従わないと、ほとりくんの命はないよって意・味」  赤髪がグラスを持つと、ぼうっとしていたほとりがようやく動いた。両手でお酒を持ち、赤髪のグラスに注いでいる。 「ほとり!」 「……」  ぴくりとも反応しない。こんなに近くに居るのに。  奥歯を噛みしめる俺に、赤髪はにんまりと笑みを広げる。 「悔しい? でも君もすぐに、俺のお人形にしてあげるよ。俺、宇宙生物が好きでさ……。俺のコレクション、見る?」 「見ない。どうせほとりにも断られたから、俺に自慢したいんだろ」 「……うん」  赤髪は肩を落としたが、気を取り直すように笑う。 「いいから座りなって。お話ししよう?」 「お話? お前の首を折れば終わるだろ」 「分かんないかなー。俺の言葉一つで、死んじゃうよ? ほとりくん。勿体ない。こんなに可愛いのに」  ほとりの髪を掬っている。  俺は嘆息した。 「馬鹿かお前は。ほとりをなくしてお前、どうやって俺から身を守るつもりだ。生き物に言う事を聞かせるやり方を、俺が教えてやろうか?」 「……」  目を据わらせた赤髪がずずっと酒をすする。 「なんで君の方が悪役台詞吐いているのかはともかく。殺さなくとも、辱める方法もあるよ? ほとりくん。全裸で俺に奉仕させようか?」  胸元のリボンを解くと、ほとりの耳元で囁いた。 「脱いで」 「……はい」  頷いたほとりがボタンを外していく。 「! よせ」

ともだちにシェアしよう!