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第33話 赤髪編 シークレットルーム
俺がやろうとした時はルンバさんに止められたのに。
赤髪は勝ち誇ったように口角を吊り上げる。
「座って」
「……ちっ」
どかっと腰を下ろした。
「ようやくお話しできるね」
赤髪がリボンを結び直している。いいから。いいからそれ以上触らないでほしい。
俺は銀の髪をいじる。
「話って? 政治の話でもしたいのか? 俺はその辺、さっぱりだぞ」
「あー。このちょっとズレた感じ。地球外生命体って感じがするよ」
ほとりと似たような反応を見せてくる。すこぶる不快だ。
「違うのか?」
「うん。ミチくん。君さ。俺の物になってくれよ。拒否権はないけど」
グラスをテーブルに置く。
「俺の物って?」
「えーっと。俺の所有物になるって意味」
「? 分からん。具体的には?」
赤髪が眉間を揉んでいる。なんだ。そっちから言っておいて、早く話をしろ。
「ええっとね。見せた方が分かりやすいかな? ついてきて」
席を立つ赤髪。俺はほとりに目を向けたが。
「言う事を聞きな。ミチくん。ほとりくんに、とんでもない命令をしちゃうよ」
「……くそ」
赤髪についていく。ほとりの瞳は何も映すことなく、お人形のように座っているだけ。
(何をされたんだ、ほとり。ルンバさんに診察してもらうしかないか……)
奥の部屋に通される。
「あ、俺が離れたからって、変な真似しないでね? ほとりくんの耳にイヤホンついてたでしょ? 俺の声はどれだけ離れていても、あのイヤホンから聞こえるから」
「変な真似ってなんだ? 地球では何が変なんだ? そうだな……具体例を三つほどあげろ」
「……」
なんとも言えない目をしやがる。なんだよ。ほとりみたいにさっと説明してくれ。
俺はやれやれと腕を組む。
「気が利かないな」
「ええ? この状況で俺を責めることが出来るの?」
赤髪の反応など視界に入らない。早くほとりのいる日常に戻りたい。飯を食べているほとりの横で、どうでもいい会話をする。あの時間が大好きだ。可愛斗に塩対応している姿も面白い。ルンバさんと仲良くしていると嫉妬するけど、あの二人が仲良くしていると俺も嬉しかったりする。
ため息連発していると、赤髪が苦笑した。
「可愛いね。こーんなに人間に懐く宇宙生物は初めてだよ。ミチくん。俺にも懐いてくれて、いいんだよ?」
赤髪が抱きついてくる。ほとりよりかは長身だが、俺の目線は下を向く。
「こんなにもって。他にも宇宙生物を知ってる口ぶりだな」
「奥の部屋にいるよ。たくさん……。もしかしたら君のお友達も混ざってる、かもね」
早く自慢したくてたまらないというように、ドアを開ける。
騒音が鼓膜を叩く。
より暗い部屋には、生物がみっしりと詰め込まれていた。
犬猫のようにゲージに入れられている、ギャアギャア鳴き騒いでいるモノ。首輪に繋がれているモノ。水槽の中で、漂っているモノ。
赤髪がニッと笑う。頬を染めて。
「どう? 俺の宇宙生物コレクション。ここは俺以外の人間を入れたことがない、シークレットルームなんだ」
懐かしい、においがする。
赤髪が俺の髪を指に巻きつけて遊ぶ。
「ミチくん。君も今日からここに仲間入りするんだよ? 知り合いとか、いた?」
「……知り合い、なぁ」
足を上げ、内部に入っていく。にっこにこ笑顔でついてくる赤髪。
ゲージの中を見て回る。もしかしたら知ってる顔があるかもしれない。
首輪と鎖で繋がれているやつの顔を覗き込み、水槽に額をくっつける。
水槽を軽くノックする。
水の中で漂っている、何かの生き物の胎児のような姿の生物。
「寝てるから邪魔するなと睨まれたんだが」
「えっ⁉ ミチくん。この子の言葉分かるの? というか、意思疎通できるんだ。知らなかったなー……」
なにやら赤髪が感激している。
「俺的には、閉じ込められて悔しい! って言ってると思ってたのに。いーや! そういう反応であってほしい!」
ジャージを引っ張るな。
「うーん……。こいつにとってかなり居心地が良いらしいな。水温も一定に保たれているし。嫌なら出てくるだろ。こいつ、宇宙でもかなり凶暴な生物だぞ。怒らせるなよ」
「あ、そうなの」
ぽけーっとしている赤髪の人間。
赤髪の顎を掴んで目線を合わせる。
「え?」
「コレクションとかほざいている割には、勉強不足だな。人間。俺が一から教えてやろうか?」
瞳を蛇に変化させて思いっきり見下ろす。
ほとりはこれで怖がったのだが……
「え、あ、あ」
何故か赤髪は頬を染めた。
熱した鉄板に触ったように、俺は手を引っ込める。
「キショイリアクションをするな!」
「酷くない? 俺、本当に宇宙生物が好きなんだって! まさか顎クイされる日がくるとは思ってなくて……」
子どものように煌めいていた瞳が、邪悪な笑みに変わる。
「――で、さあ。これ見て分かったかな? 分かったよね? 君はここで、監禁されるの。俺のコレクションのひとつになるんだよ?」
「ここって海が見えるか?」
「え?」
笑みを引っ込め、瞬きを繰り返す。
「海が見えるなら、大人しく監禁されていてやろう」
「海? どうしてかな?」
「好きだからだよ」
話し相手にも困らなさそうだしな。ほとりさえ解放してくれるなら、しばしここでじっとしておいてやる。……問題は、ルンバさんになんて言えばいいか、だが。それは後で考えよう。今はほとりを。ルンバさんの治療を受けさせるのが第一だ。
「お前の言う事も聞こう。ほとりを解放してくれ」
これでほとりは助かる。ルンバさんには伝言を頼んでおけばいい。
伝言の内容か。どうすっかな。「お宅の猫ちゃん預かってます」と言われて、行動を起こさない飼い主などいるだろうか。長い年月を共にしているが、ルンバさんが本気で怒ったところは見たことがない。だからこそ余計に、想像ができなくて怖いのだ。
「海は見えないし、ほとりくんも解放しないよ?」
「……」
「ごめんねー。ここ地下だからさ。地上だったとしても地理的に海は見えないし」
「……」
「海が恋しいのなら、たまに散歩で行こうよ。首輪つけてさ。俺がリードを持ってあげる」
騒いでいた宇宙生物たちが沈黙し、水槽で漂っているモノが薄目を開けた。
ああ、ここまで腹が立ったのは久方ぶりだ。
もう一度だけ口を開く。
「言う事を聞いてやる。ほとりは解放しろ」
「跪け、宇宙生物。今日から俺が主だよ。ミチくん」
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