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第34話 赤髪編 嫌われている、はずなんだ
〈赤髪視点〉
嬉しいよ。
宇宙生物の言葉も分かって、人間の言葉も理解できる通訳的生物が欲しかったんだ。
ちょっとズレてるけど会話出来る知能もある。外見は美しいが……恐らく本当の姿じゃないだろうな。あとで真実の姿を見せてもらおう。想像もつかないクリーチャーのようだったら嬉しいかな。
色んな動物の剥製を集めていたけど、もうただの動物じゃ満足できなくなったよ。
最初に出会ったのは水槽の中に居る子。裏オークションで見つけた時は視界に星が散って、電流がつま先まで流れたね。
他の宇宙生物たちも、みーーーんな、愛してるよ。
「言う事を聞いてやる。ほとりは解放しろ」
「跪け、宇宙生物。今日から俺が主だよ。ミチくん」
強気だなぁ。自分の立場を分からせる必要があるかな。ほとりほとり言っちゃって……。自分の弱点が彼ですって、教えているようなものだよ。
襟につけたマイクに唇を近づけた。このマイクに向かって話せば、イヤホンから俺の声が放たれる仕様になっている。さて、ほとりくんにはどんなことさせようか。ミチくんの前で色々させると楽しそう。
「ほとりく――」
唇だけが動いた。
「――」
あ、あれ。声が出な……呼吸も、できな、い。
「―――?」
喉を押さえる。
お、おかしい。酸素を吸いこめない。口は動くのに! な、何故。
ハッとなってミチくんを見る。
彼の瞳は真っ青だった。白目の部分まで青く、瞳孔がダイヤの形になっている。光はなく、黒い渦のような怒りが俺に突き刺さった。
「ッ‼」
「もうこれ以上、ほとりの名を口にしてほしくない」
後頭部が痺れ、視界から徐々に色が抜け落ちていく。
見えない手が、首を締め上げているようだ。
視界が、昔のテレビのようになる。
(まさか……ッ)
特殊な力を、持っているというのか。
今までの子たちに、こんな力は……
「ッ、っ――! ッ」
自分が膝をついたことにも気づけない。
「苦しいか? 苦しめる趣味はない。一撃で楽にしてやる。心臓を握り潰して、それで終いだ」
「ごぷっ⁉」
心臓を、見えない手が鷲掴みにする。
苦しい、苦しい! くる、じ、ぃ……
俺を見ながら、悲しそうに目を細めた。
「……人を殺すのは初めてだ。さようなら」
「っ」
あまりにきつく握られ、心臓の動きが弱まっていく。
(ここま、で、か……な)
宇宙生物を舐めていたようだ。だってどいつもこいつも、みんな。簡単に捕まえることが、できたんだ……か、ら。
ぐるりと、眼球が上を向いた。
――パンッ!
「っ⁉」
ミチくんが突き飛ばされたようによろけ、俺は床に倒れ込んだ。
呼吸ができるようになっており、酸素を貪る。
「――ヒュッ、ゴホッ! あ、ああ。げほっ!」
心臓も痛くない。
汗だくになりながらも顔を上げると、ミチ君の瞳が元に戻っていた。俺――ではなく、俺の背後を見ている?
「……ぅ?」
震える身体で振り向くと、ふわりと何かが舞い降りた。
――美し、かった。
風鈴に似た姿で、クラゲのような触手を持ち、水中ではなく空中を漂っている。
カサの部分には大きな大きな、妖精の羽根を生やしていた。
透き通る桜色の羽根を持つクラゲ。だがその大きさはミチくんをも余裕で超える。この部屋では狭いのか、羽は天井に当たり、折れ曲がっていた。
カーテン状の触手を手のように使い、俺の肩に乗せている。
「……あ」
ミチくんの背後にある水槽が割れていた。水が漏れだし、床がびしょ濡れだ。
腰が抜けた俺に、ミチくんはつまらなさそうに告げた。
「どうやらそいつは、お前には好意的みたいだな。いってぇ……。念動力を跳ね返されたのは初めてだ」
痛そうに手首をさすっている。
……え? では、このクラゲは。
「鈍いな。さっきまで水槽の中に居た奴だよ」
「は……?」
「どうする? お前を庇ったそいつに免じて、もう一度だけ聞いてやろうか? ほとりは解放しろ」
「……」
――俺を、庇った?
そんなはずはない。俺はこの子をずっと水槽に監禁していたんだ。俺のことを恨んでいるはずだ。憎んでいる、はずなんだ。
頭上を見上げる。
クラゲは俺を守るように佇んでいる。ひらひらと、羽衣のように触手をなびかせながら。
「そいつ。お前の独り言ずっと聞いてたみたいだぞ。うるせぇなぁって思いながら」
「……ぇ」
た、確かに。コレクション達の前で喋りまくってたっっけ……。君たちを手に入れられて、どれだけ嬉しいのかを。両手を広げて、延々と――
ミチくんが室内を見回す。
「こいつら別に、いつでも逃げ出せたけど。お前が、そんなに嬉しいのならまあ、ここに居てやろうか? って感じで留まってただけっぽいしな」
俺は、濡れた床に額を付けた。
「……。もういいや」
「あ?」
やめてよ、もう。恥ずかしいよ。
「帰って、いいよ……。もう二度と、君たちには、近づかない……。誓うよ」
「……」
迷いなく、ミチくんが横を通り過ぎていく。
ああ。ああ。ミチくん。
宇宙生物と地球の言葉が分かる唯一の生き物。
俺が一番欲しかった宇宙生物は、手に入らなかった。ゲージに入った複数の目が、瞬きもせず俺を見つめている。冷たく、見下すように。
無様な俺を、笑うように――
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