34 / 67

第34話 赤髪編  嫌われている、はずなんだ

〈赤髪視点〉  嬉しいよ。  宇宙生物の言葉も分かって、人間の言葉も理解できる通訳的生物が欲しかったんだ。  ちょっとズレてるけど会話出来る知能もある。外見は美しいが……恐らく本当の姿じゃないだろうな。あとで真実の姿を見せてもらおう。想像もつかないクリーチャーのようだったら嬉しいかな。  色んな動物の剥製を集めていたけど、もうただの動物じゃ満足できなくなったよ。  最初に出会ったのは水槽の中に居る子。裏オークションで見つけた時は視界に星が散って、電流がつま先まで流れたね。  他の宇宙生物たちも、みーーーんな、愛してるよ。 「言う事を聞いてやる。ほとりは解放しろ」 「跪け、宇宙生物。今日から俺が主だよ。ミチくん」  強気だなぁ。自分の立場を分からせる必要があるかな。ほとりほとり言っちゃって……。自分の弱点が彼ですって、教えているようなものだよ。  襟につけたマイクに唇を近づけた。このマイクに向かって話せば、イヤホンから俺の声が放たれる仕様になっている。さて、ほとりくんにはどんなことさせようか。ミチくんの前で色々させると楽しそう。 「ほとりく――」  唇だけが動いた。 「――」  あ、あれ。声が出な……呼吸も、できな、い。 「―――?」  喉を押さえる。  お、おかしい。酸素を吸いこめない。口は動くのに! な、何故。  ハッとなってミチくんを見る。  彼の瞳は真っ青だった。白目の部分まで青く、瞳孔がダイヤの形になっている。光はなく、黒い渦のような怒りが俺に突き刺さった。 「ッ‼」 「もうこれ以上、ほとりの名を口にしてほしくない」  後頭部が痺れ、視界から徐々に色が抜け落ちていく。  見えない手が、首を締め上げているようだ。  視界が、昔のテレビのようになる。 (まさか……ッ)  特殊な力を、持っているというのか。  今までの子たちに、こんな力は…… 「ッ、っ――! ッ」  自分が膝をついたことにも気づけない。 「苦しいか? 苦しめる趣味はない。一撃で楽にしてやる。心臓を握り潰して、それで終いだ」 「ごぷっ⁉」  心臓を、見えない手が鷲掴みにする。  苦しい、苦しい! くる、じ、ぃ……  俺を見ながら、悲しそうに目を細めた。 「……人を殺すのは初めてだ。さようなら」 「っ」  あまりにきつく握られ、心臓の動きが弱まっていく。 (ここま、で、か……な)  宇宙生物を舐めていたようだ。だってどいつもこいつも、みんな。簡単に捕まえることが、できたんだ……か、ら。  ぐるりと、眼球が上を向いた。  ――パンッ! 「っ⁉」  ミチくんが突き飛ばされたようによろけ、俺は床に倒れ込んだ。  呼吸ができるようになっており、酸素を貪る。 「――ヒュッ、ゴホッ! あ、ああ。げほっ!」  心臓も痛くない。  汗だくになりながらも顔を上げると、ミチ君の瞳が元に戻っていた。俺――ではなく、俺の背後を見ている? 「……ぅ?」  震える身体で振り向くと、ふわりと何かが舞い降りた。  ――美し、かった。  風鈴に似た姿で、クラゲのような触手を持ち、水中ではなく空中を漂っている。  カサの部分には大きな大きな、妖精の羽根を生やしていた。  透き通る桜色の羽根を持つクラゲ。だがその大きさはミチくんをも余裕で超える。この部屋では狭いのか、羽は天井に当たり、折れ曲がっていた。  カーテン状の触手を手のように使い、俺の肩に乗せている。 「……あ」  ミチくんの背後にある水槽が割れていた。水が漏れだし、床がびしょ濡れだ。  腰が抜けた俺に、ミチくんはつまらなさそうに告げた。 「どうやらそいつは、お前には好意的みたいだな。いってぇ……。念動力を跳ね返されたのは初めてだ」  痛そうに手首をさすっている。  ……え? では、このクラゲは。 「鈍いな。さっきまで水槽の中に居た奴だよ」 「は……?」 「どうする? お前を庇ったそいつに免じて、もう一度だけ聞いてやろうか? ほとりは解放しろ」 「……」  ――俺を、庇った?  そんなはずはない。俺はこの子をずっと水槽に監禁していたんだ。俺のことを恨んでいるはずだ。憎んでいる、はずなんだ。  頭上を見上げる。  クラゲは俺を守るように佇んでいる。ひらひらと、羽衣のように触手をなびかせながら。 「そいつ。お前の独り言ずっと聞いてたみたいだぞ。うるせぇなぁって思いながら」 「……ぇ」  た、確かに。コレクション達の前で喋りまくってたっっけ……。君たちを手に入れられて、どれだけ嬉しいのかを。両手を広げて、延々と――  ミチくんが室内を見回す。 「こいつら別に、いつでも逃げ出せたけど。お前が、そんなに嬉しいのならまあ、ここに居てやろうか? って感じで留まってただけっぽいしな」  俺は、濡れた床に額を付けた。 「……。もういいや」 「あ?」  やめてよ、もう。恥ずかしいよ。 「帰って、いいよ……。もう二度と、君たちには、近づかない……。誓うよ」 「……」  迷いなく、ミチくんが横を通り過ぎていく。  ああ。ああ。ミチくん。  宇宙生物と地球の言葉が分かる唯一の生き物。  俺が一番欲しかった宇宙生物は、手に入らなかった。ゲージに入った複数の目が、瞬きもせず俺を見つめている。冷たく、見下すように。  無様な俺を、笑うように――

ともだちにシェアしよう!