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第3話 ガマン、ガマン、ガマン

 凍りついた。一転して遮二無二もがいた。たちまち射殺すような視線プラス、舌打ちという集中砲火を浴びた。  うつむき、縮こまる。その一方で防護壁を築くように、きゅっと玉門をすぼめた。  なのに痴漢は引き下がるどころか、扉をこじ開ける強引さで指を狭間にすべり込ませ、からかうみたいにスライドさせる。  不幸のどん底に落ちやがれ。英斗は、そう心の中で毒づいた。ぐらぐらと脳みそが煮えたぎるようで、そこに邪念が忍び込む。  淫らに蠢く指が、あいつのものだったら。あいつ──不破大雅(ふわたいが)が友人という枠からはみ出す意味で悪戯してきた場合は、うれしいと思う以前にパニクって、一目散に逃げだすかもしれない……。  ゆるゆると首を横に振った。大雅がエロさ全開でのしかかってくる未来なんて、人類が月に移住するよりありえない。  想像のなか限定とはいえ、(みだ)りがわしい指を大雅のそれに置き換えることじたい、願望丸出しで浅ましいったら。  それでいて売約済みの札を貼るように玉門をひと突きされると、下腹(したばら)が甘やかにざわめく。その波動が勃起中枢に刺激して、ヤバい、()つ……!  降りる駅に着いた。人波に身を任せてエスカレーターに乗ったものの、心臓がバクバクしどおしで転げ落ちてしまいそうだ。ただ、喧噪に包まれると車内でのひと幕は妄想の産物めいて現実味が薄い。 「欲求不満かよ……」  呟き、ワイシャツの衿をばたつかせながら鼻をひくつかせても、柔軟剤の香りがほのかに漂うだけ。そばにいた人間の獣欲をそそる、おかしなフェロモンは洩れてはいないようだ。  ショッキングな出来事は忘却の彼方へ──が賢明だ。なので努めてテキパキと仕事をこなし、会社の帰りに不破大雅の家に寄った。リバーサイドににょっきりと建つタワーマンションの一室に。  きらびやかな夜景が眼下に広がり、 「もったいないオバケが出るぞ。超絶キレイな眺めも、おまえにとっちゃ宝の持ち腐れな」  ベランダに面したカーテンを開け放す英斗をよそに、大雅はヘンテコな物体を組み立てるのに夢中で生返事をよこすのみ。  莫大な遺産を食いつぶしながら日がな一日、3Dプリンターやら工具類と戯れている、いわゆる高等遊民だ。  トランスフォーマー的な機能搭載の孫の手だの、自走式のリモコンだのを発明するのが趣味、という変わり者だ。

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