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第6話 モテ期到来──ただし相手は痴漢
誰かの傘の握りがぶつかるせいにしては、とんとんとリズミカルに尻を叩く。一本指でピアノを弾いているような、そのタッチは明らかに人為的なもの……。
ざわっと鳥肌が立ち、にもまして腸 が煮えくり返る。
昨日、まんまと逃げきったばかりに、おれをチョロいやつと認定した同一犯がちょっかいを出してきたに違いない。ナメやがって、今日こそ捕まえてやる。
まずは手錠をはめるように、べったりと双丘に押し当てられた手をねじりあげてやろう。
英斗は敢えて正面を向いたまま、腰を搔くふうを装って行動に移した。だがシマリス並みのすばしっこさで手は逃げた。しかも、
「……っ!」
指が花芯をピンポイントで捉えて、つつき回す。おぞましさに立ちすくむ反面、内 がシロップを一滴垂らしたように甘やかに疼く。
英斗は固まった。隙に乗じて、もう一方の手が前に回った。胸に抱えたリュックサックの陰で、淡々しい影をワイシャツに投げかける乳首をつまむ。
パッとリュックサックをずり下ろした。そして目を丸くした。手をもぎ離すも何も、いまのいま淫らな攻撃を仕かけてきた手、そのものが消え失せている。
そのくせ掘り起こすように乳首をいじられている感覚は、薄れるどころかますます強まっていく。ぽちりと粒が膨らんで、アンダーシャツにこすれる。
頭の中が疑問符で一杯になった。
手をどこに隠した? どんなトリックを用いて、乳首をいたぶりつづける?
英斗は犯人を突き止めるべく、くるっと振り返った。だが、わざとらしくスマートフォンをいじる容疑者その一も、おどおどする容疑者その二も見当たらない。
それ以前に通路全体がぎちぎちに埋まっているはずが、なぜか人垣がコの字型に途切れた中に立っているのは英斗だけだ。
もしかすると、と唇を嚙みしめた。痴漢の餌食になっていることじたい白昼夢の類いなのかもしれない。
電車の振動が躰に響いて、煩悩の塊と化してしまう──実際はそうだとしたら、あまりにも滑稽だ。
やわやわと花芯を撫でさする一方で乳首をひしぐ、巧みな指づかいが生々しく感じられるのも、潜在意識の悪戯によるもの?
通勤電車の中でエロい空想に耽るのがマイブーム? な、わけあるか!
あくびが出たふりで悩ましい吐息を逃がす。懺悔しろ、と迫られたとして、潔白だと言い張れば嘘になる。
ここ数年に限っても大雅とセックスするところは千回以上、想像した。乳首をついばむ場面からはじまって、つきりと尖ったのを甘咬みしながら、
──ちっぽけなのを舐めやすい大きさに育てる。まぐわいの醍醐味だ。
などと睦言で蕩かしてくれるのが殿堂入りを果たした、お気に入りのパターンだ。つねづねオカズにしていることが本人にバレたときは、腹をかっさばいて詫びるようだ。
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