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第7話 天誅よ下れ
雨粒が窓を斜めに走る。停車駅と停車駅の間隔がいちばん長い区間に入り、英斗はいよいよ窮地に陥った。
「……ぅ!」
びくっと腰が跳ねた。あわてて前かがみになり、腹痛に襲われたとアピールすることでその場を取りつくろう。
スラックスの内側にこじ入っただけでは飽き足らず、ボクサーブリーフをめくりにかかる手には、ちゃんと温もりがある。
〝題して貞操の危機〟。やっぱり、これは百パーセント現実の出来事だ。
捕まりっこない、と高をくくって増長して、ぎゃふんと言わせてやる。殺気をみなぎらせて圧をかけて、だが悪辣な手は退くどころか、ボクサーブリーフを食い込ませながら遡る。
尾てい骨をふりだしに、谷間へ至るラインを、じわじわと。
果ては股ぐりのゴムをずらして、ハープを爪弾くように和毛 をじゃらつかせる始末。
くすぐったさと、むず痒さをない交ぜに腰が揺らめく。ねだりがましげで、みっともない。英斗は今度はわざと膝をかくかくさせて、貧乏ゆすりに震えているふうを装った。
もっとも痴漢は一枚上手 だ。乳首に照準を定めた指は、強弱をつけて粒をひっかく。
あるいは乳暈 にめり込ませておいて、おずおずと膨らんできたのを優しく撫でる。
「ん、んん、んんーっ!」
大げさな咳払いが意味するところは、こうだ。おとなしくしてれば、のさばり返って図太い野郎め。おれを囮にして痴漢を捕獲したと吼えて、てめえを社会的に抹殺してやる。
ところが咳払いは、忌まわしい形の連鎖反応を引き起こす。生ぬるい快感が躰の芯を冒し、甘ったるい毒素が理性を蝕む。
英斗は精一杯、床を踏みしめた。
ただでさえ昨夜もひとりエッチに励んだ余韻が残っているせいで、感じやすい。はにかみがちにペニスが萌した。
静まれ、と命じてもスイッチが入ったが最後、むずかるように蜜をはらみはじめる。
男の生理、不可抗力は通用しない。周りの誰かがあられもない様子を見とがめしだい、面目が丸つぶれになるのは英斗のほうだ。
できるだけリュックサックを押し下げて、カムフラージュをほどこす。数キロ先のつぎの駅が、南極より遠くに感じられる。やんちゃ坊主に即、萎えてほしいときの特効薬はグロいもの、だ。
英斗は猟奇的な映画のシーンを片っ端から思い浮かべた。
反面、さわり方がもどかしい。大雅の指……極小のチップを基板に埋め込むあの指がもしもペニスに絡んできたとしたら、きっと秒で暴発する。
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