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第11話 心乱れて行ったり来たり

「ほっつき歩ってる不破なんてレアなものを拝めてラッキーだわ。じゃあな、またな」  未練たらたら後ろ歩きで立ち去りかけたとたん、呼び止められた。 「いちおうコロナが終息して以降の、出社日とリモートワークの比率は何対何だ」 「んー、四対一ってとこ。けど、なんで?」  いってらっしゃいと手が振られて、要するにはぐらかされた。ともあれ結果オーライだ。普段より一本遅い電車に飛び乗ったおかげか、痴漢に遭遇せずにすんだ。  三度(みたび)、尻を巡って攻防戦を繰り広げるのは真っ平だ、と神経をとがらせていた反動でドアに寄りかかる。なんとなく刺激が足りない……。  刺激が足りない? バカか、と英斗は力いっぱい頬をつねった。それはさておき大がかりなイベントがらみの会議で他部署の連中をやり合っている間も、朝のひと幕が意識の表層に浮上する。  大雅の、あの謎めいた行動の裏には、どんな目的があったのだろう。帽子とマスクで変装してまで、おれを待ち伏せするみたいな真似をして。  たとえばストーカーを撒いて逃げる対策グッズのアイディアがひらめいた、とする。製作に入る前にさまざまな角度からアプローチすべくストーカーになりきって、おれの後を尾けるつもりだった……ありうると言っちゃ、ありうる。  おれのスケジュールを把握しておきたがったのは、実は何かドッキリを仕かけようと目論んでのことかもしれない。  もっと単純な話で、ぼんやり歩いているうちにおれの自宅付近まで来てしまった、とか。けっこうな距離があるのは別として。  ため息ひとつ、配られた資料にもういちど目を通す。天然系で天才肌の男が考えることなど所詮、凡人には理解しがたいのだ。  波乱含みに迎えた週末、英斗はビジネスホテルの一室にいた。シチュエーションプレイが売り物のデリヘルに予約を入れてあった。  選んだコースは痴漢ごっこ。といってもスリリングな状況下で玩弄されるのに病みつきになったわけでも、エッチ目的でもない。  打倒・痴漢を掲げて戦闘スキルをあげるため──いわば苦肉の策だ。  だが、正当な理由があっても後ろめたさが付きまとう。 「不破を裏切って浮気してるっぽいも何も、操を守る間柄じゃありませんし……?」  自嘲気味に嗤って、ベッドに寝転がった。

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