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第14話 迷路の出口は霧の中
足がもつれて躰が傾ぐ。枕木の一本、一本が大写しで視界に迫ってきて、ヤバい、転げ落ちる。
と、腕を摑まれて引き戻された。感謝の笑みを浮かべながら振り向いたのが一転して、息を呑む。
錆びついた門扉を無理やり閉めるように、ぽかんと開きっ放しの口をぎぎぎと閉じた。唇を舐めて湿らせてから、ようやく言葉をひねり出した。
「えっと、不破、が助けてくれたんだ……?」
人だかりを背にしてたたずむ大雅は幻覚じゃない、骨格を具えた厚みがある。ただし、その姿は珍無類の上をいく。
ぱっと見はフードがめくれて顔があらわになったところ、だ。
だがミスった図、と書いてあるシールが貼られているような生首、および英斗の腕からほどかれた右手だけが、にょっきりと空中から生えているみたいに見えるのは、なぜ?
英斗は、こめかみを揉んだ。テレポーテーションの装置が転送中に壊れたように大雅の一部がぽんと出現するなんて、怪奇現象の類いだろうか。
「これ、何系のイリュージョンよ、ギロチンで首ちょんぱみてえ……」
そう努めて茶化し、3D映像を思わせる顔へ恐る恐る手を伸ばしてみた。
届いた、いや、かわされた。チチンプイプイと唱えたように、トレードマークの太縁眼鏡がぼやけていく。
どろん、と大雅の姿はかき消えた。
「おい、待てよ、待てってば!」
追いかけたいのは山々だが階段の上まで人がぎっしりで身動きがとれない。仕事の合間に繰り返しLINEで説明を求めても、既読スルーの嵐。
英斗は当然、退社した足でタワマンに乗り込んだ。〝居留守を使ったら絶交だ〟とLINEで釘を刺しておいたのが効いてエントランスを突破したあとは、マンション内を突き進むのみ。
当の大雅は、といえば。上がり框 に正座して、かしこまっていた。
「今朝の、あれ。人間消失マジックショーみたいなやつのカラクリを吐け!」
英斗は開口一番、まくしたてた。
「しらばっくれるのは、なしだ。おまえの態度如何 によってマジに縁を切る!」
くりっとした双眸をぎらつかせて、たたみかける。衝動的に片思いの歴史に終止符を打てば、きっと永遠に悔やむ。そして死の床で泣き濡れるのだ。
不破大雅、現在 でもおまえは、おれの心の中で燦然と輝く一等星だ──。
大雅が、いっそう縮こまった。百八十センチ強の長身ではちんまりには程遠いが、極限まで丸まった背中が物語る。
秘密を守り通すべきだ、種明かしをするのが賢明だ──せめぎ合うさまが、ひしひしと伝わってくる。
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