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第15話 ……え!?

「だんまりですか。時間稼ぎに走るとは姑息ですねぇ」  恫喝するさいの基本に忠実に、猫なで声で迫る。と、ともに大雅の正面に片膝立ちになって、じわじわと圧をかけていく。  沈黙が落ちた。無言の駆け引きは根競べさながら、一昼夜にわたってつづく勢いだ。先にしびれを切らした英斗が、どんと床を踏み鳴らし、 「おらおら、きりきり白状しやがれ」  凄みを利かせると、大雅は物証を突きつけられた容疑者のように、ぼそぼそと話しはじめた。 「……隠れ(みの)をヒントに苦節五年、会心の(しな)の完成にこぎ着けた」  太縁眼鏡を外し、レンズを磨いたうえでかけなおす。それから天女の羽衣さながら、独特の光沢があって薄手のコートを羽織った。  魔術に思えた。膝をたたんだ下半身は変わらずそこに在るのに対して、コートに包まれた上半身は蒸発したふうに消え失せた。  遮るものが半減したぶん、廊下の隅を舞う綿埃がはっきり見える。  ウエストの線に沿って真っ二つ、といった光景だ。英斗は沓脱ぎにずり落ち、尻餅をついた。  勇気を出して大雅にいざり寄り、コートの裾がたぐまっているあたりを横に払ってみる。  すると()ぎ合わせたように躰は元通り。大雅はまじめくさってフードをつまむと、コートをひらつかせた。 「こいつは遺伝子操作を行った改良型の蜘蛛の糸を紡いで織った特殊な繊維でできている。視細胞に働きかけることによって、目の前にいるはずの人間を見失ったという錯覚を起こさせる機能を(そな)える」  ああで、こうで、なんたらかんたら。相対性理論まで交えた説明はチンプンカンプンで、よけい頭の中がこんがらかる。英斗はもはや、うなずくのが精一杯だった。 「つまりタロウもハナコも透明人間に変身できる(すぐ)れものが誕生したわけだ。ブラボォ」  と、大雅はドヤ顔でざっくり話をまとめた。すっくと立ちあがると、狂熱的な眼眼差しで英斗を射すくめておいて曰く、 「世界広しといえど俺を友人として遇する物好きは一ノ瀬だけだ。感謝を込めて一ノ瀬にいやらしいことをしたい、して嫌われるのは困る。ジレンマに陥った男心を原動力に日夜、コツコツと研究に励んだ結果が、これだ!」    ばさりとコートをまとうと、たちどころに大雅の姿は霞む。  ツッコミどころが満載で、英斗はタイムを要求する余裕すら失った。パニクり返るなかで、こう思う。  おれにいやらしいことをしたい云々の真意は、なに? ご想像にお任せするとばかりに、尻切れトンボにぼかして性質(たち)が悪いったら。

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