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第16話 クエスチョンマーク祭り、からの失恋気分

 大学時代、ゼミの担当教授でさえ変人扱いしていた。恐らく大雅の思考回路は、いろは坂のように曲がりくねっている。 「……ちょっとインターバルを置こう」  そう言って、持参したビールをがぶ飲みするにつれて点と点が結ばれていく。ぶっちゃけトークを反芻すれば答えが弾き出されるとともに、腹が立つ。 「……おまえ、ご自慢のコートを悪用して、おれを人前で辱めてくれたな。この手が動かぬ証拠だ!」  英斗につづいてプルタブを引いた手をむんずと摑みざま、自身の尻たぶにあてがった。  撫であげて、撫でおろすたびに確信が強まる。肌に鮮烈に刻まれた、あの手の感触は、刺青(いれずみ)を超えるレベルで肌に強烈に刻まれている。  ドサクサにまぎれて、やりたい放題に淫弄してくれたのは……、 「おまえだったとは灯台下暗し。ちっ、乳首はおろか……」  陰嚢(いんのう)および玉門までいじくって──は、ごにょごにょと濁す。身長差を補うべく、爪先立ちになって大雅を()め据えた。  すると逆に誇らかに答える。 「バレたからには仕方がない。出勤する一ノ瀬を徒歩プラス電車移動で尾けるのにハマり、寄り添ってシャンプーの残り香を嗅いでいるうちにムラムラして、自制心がパアだ」 「てへ、なんて開き直れる立場か!」  ぺろりと舌を出し、おまけに自分の頭をこつんと叩く。そんな、おどけた仕種で笑い話にすり替えようとするさまに苛つく。にもかかわらず、お茶目な面が新鮮と口許がゆるんでしまう。  などと恋は盲目という網に、進んで搦め取られにいきたがる自分にトホホだ。英斗は目力もろとも語勢を強めた。 「新発明の性能を確かめるために、おれを実験台にしたんだな。結局は、そうだろうが」    地団太を踏むにしたがって全身の血が沸騰する。(くだん)のコートを鷲摑みにさらい取った。びりびりに引き裂いてやろうとしたものの、鎧のごとく頑丈だ。せめてもの腹いせに投げ捨てた。  そこで大雅が突然、足下にひざまずいた。 「腐れ縁のよしみで、いささか過激なスキンシップを図った件は出来心のなせる業、と寛容の精神を発揮する方向で頼む」  たとえ三べん回ってワン! をしてみせても、悔い改めたという保証はない。男の純情を踏みにじられた恨みは深い。  英斗は、ぼこぼこに空き缶をへこませた。  尖った箇所で指を切り、怒りが爆発した。  このとおり、と神妙に頭を下げるわりには、しれっとした顔めがけてグーパンを放つ。寸止めでやめて腕をだらりと垂らし、そして背を向けた。 「後生だ。『一ノ瀬に触れたい』が臨界点に達した気持ちを汲み取ってほしい」  追いすがってくるのを蹴りのけざま部屋を飛び出した。対岸にタワマンがそびえ立つ、川沿いの遊歩道をとぼとぼと歩く。  だんだん水面(みなも)がぼやけていき、拳で目許をぬぐうと水滴が散った。だが密かに想いを寄せつづけてきた相手からコケにされた程度のことで、涙腺が決壊するわけがない。  石畳にしゃがみ、あそこが不破の城、と窓明かりを振り仰ぐ。  トンチンカンな性格で、唯一無二の味わい深いキャラ。標的に選んだのが百歳のばあちゃんでも嫉妬に狂うところだが、邪心を抱くのは一ノ瀬限定と匂わせる口ぶりに免じて赦してあげないこともない。  頭をひと振りして、 〝友情にひびを入れやがってバカバカ、ぶわぁかっ! よって、おまえのお世話係が本日付で卒業する〟。  そうLINEで引導を渡そうにも指が小刻みに震えて誤変換のオンパレード。腹立ちまぎれにスマートフォンの電源を切った。  恋に落ちて以降のさまざまな場面が脳裡をよぎると、やるせない。ひとしきり嗚咽が川音にくぐもった。

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