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第6話
◇
隼人side
空港の駐停車場に車を停めて待っていると、向こうからすらっとした影が近づいてくる。窓を開けて声をかける。
「おーい!」
大きく手を振るとすぐ俺に気付いて手をあげ早足になる。
「へえ、いいの乗ってんね」
「古いから大変だよ」
「ほんとにきてくれるんだもんな」
「こないと思った?」
「いやー、くるでしょうね。隼人はーー」
「ん?」
「なんでもない…あ、後ろ、荷物乗せてもいい?」
「開けるね」
バックミラーで涼が荷物を入れるのを見届ける。
荷物を入れ終わると駆け足で助手席側に回ってノックをしてから扉を開けて乗り込む。きちんと服を整えてからシートベルトを閉めた。なんていうか、涼っておもしろいし冗談通じまくるタイプだし話すと結構ふざけてるんだけど、やっぱり育ちが良いというかきちんとしているというか。
「はい、じゃあ出しまーす」
〜♪
俺の電話が鳴っている。
「俺か、ちょっといい?」
「どうぞどうぞ」
翼からだ、通話をタップする。
「はーい」
『なんか隼人さんの服も持って帰っちゃってて』
「あーほんと?いいよ、いつでも」
『今から持ってくんで、ついでに飲みません?』
◇
涼side
何気なく迎えにきてもらうことになったと思ったら、さらに何気なく一緒に飲むことになった。
しかも隼人の部屋で、隼人の後輩も一緒だ。今日はどうせ飛行機に乗っていただけで、移動疲れはあるが、確かに少しなにか発散したいような…要するに酒を飲みたい気分だった。
荷物を置いたら俺の部屋に集合で、と隼人とはエレベーターでわかれた。
鍵を開けて中に入る。
…そうは言ってもシャワー浴びてから行くか。
◇
ピンポーン。
バタバタバタバタ、がちゃり…
目の前に立っていたのは隼人ではなく、驚くほど端正な顔立ちで、青年というよりもどちらかというとまだ少し少年のような雰囲気を持つ男の子だった。
「ここ、隼人の部屋であってます?」
人形のような綺麗な目が少し笑い「こんばんは、隼人さんの後輩の翼です」と挨拶される。
「こんばんは、桐谷です。」
翼くんが中に入るのに着いていく。
自分の部屋と同じ構造にも関わらずこうも雰囲気が違うのだなとつい観察してしまう。
無駄な荷物が少なくさっぱりとしていて、よく掃除されているのがわかるような清潔感がある。なんとも男らしい、隼人の性格そのままの部屋だった。無駄な装飾がなく生きていくのに必要なもののみに囲まれているというような雰囲気だ。
リビングに入るとテーブルに酒が何本も並んでいる。
「さ、隼人さんほっといてはじめますか!」
と、翼くんが音頭を取ろうとしたと同時に隼人が風呂場から頭を拭きながら出てくる。
見惚れてしまうような鍛えられた身体に、少し感動する。
「ちょっと、君たち仲間はずれはよくないな!」
隼人が手際よくグラスを渡してくる。
服着ろよ!と翼くんがTシャツを投げつけるとそのTシャツを受け取りめんどくさそうに着る。
仲良いんだな、とすぐにわかる距離感だ。
「じゃあ涼おかえりのかんぱーい!」
◇
2人とも飲むペースが早く、俺が1杯飲む間に2人とも3杯目に突入していた。
翼くんとも初めて会ったとは思えないくらいに話が合ったが、これは翼くんの人との距離感を図る天性の才能がなせる技に俺が乗せてもらっているんだろうと感じた。7つ下とは思えない、年齢は関係ないと感じさせるしっかりとした子だと思った。
翼「それにしても、涼さん、弁護士なのによくこんな筋肉バカと話が合いますよね」
隼人「何言ってんの、俺こう見えて一次試験ほぼ満点だったんだから!インテリです!」
翼「ほんとに頭良かったら、司法試験受かってる人の前でそんなこと言えないでしょ」
隼人「ひどくない?ねぇどうなのこの子!」
涼「そうだね、鋭い視点で、翼くんのIQの高さを感じるね。」
「さすが人を見る目がありますね」と得意げに翼くんが笑い、隼人もつられて大笑いしている。
翼「俺、弁護士の先生と話すのなんて初めてなんですけど、なんで弁護士になろうと思ったんですか?…とかって聞いていいですか?」
涼「いや、恥ずかしながら深い理由はあまりなくて。民間企業のサラリーマンは自分に向いてなさそうだなとか、できるだけ長く社会に出たくないなとか、結構打算的に消去法で。だから今もよく弁護士と聞いて普通イメージするような刑事事件とかは全く。」
翼「すごいよなー、仮にそう考えついたとしても頭がついてこないでしょ普通。」
隼人「なんかでも涼っぽいわ」
翼「…人生のどのタイミングでそんなこと思ったんですか?」
涼「中3くらい?」
翼「中3のときとか俺、将来とかなんも考えてなかったな〜、ま、俺らは部活ですよね」
隼人「…部活だな」
涼「2人とも何部なの?」
翼「俺も剣道部で…隼人さんもね」
隼人「そう、たまたま同じなんだよね」
翼「しかもこの人、剣道部の主将で全国大会優勝してる」
翼くんが剣道部というのもなんとも素敵だなと思ったが、隼人が剣道部だと聞いて全身に風が吹き抜けるような気持ちになった。
初めて隼人と話したスーパーからの帰り道を思い出した。あの時、初めて見た隼人が高校時代の先輩の姿と重なったが、俺の先輩への気持ちはもしかすると憧れを超えたものもあったのかもしれないと気付いてしまった。こんなところで突然、15年越しに。
そしてさらに、目の前にいる隼人に対して、何か気付いてはいけなかったような気持ちに気付いてしまったような気がする。
今までなんともなかった距離感や、やりとりや、すべてが突然に恥ずかしくなる。
ダメだちょっとこの場に耐えきれない。
涼「あ、ごめん、なんか疲れてんのか、酒がだいぶ回ってきた気がするから、ぼちぼち帰ろうかな。」
6話 おわり。
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