12 / 17
第12話
◾️12/22 月曜日
◇
隼人side
「おはようございまーす!」
「おはよう」
「隼人さん、おはよっす」
「おはよ」、と翼に挨拶をする。
「今日の小学校の訓練、俺らの班ですよね」
「ん、そうだよ。点検終わったら早めに準備しとけ」
「いいな〜ちびっこは。明日終業式だって。俺もまとまった休み欲しいなー」
「あれ?しばらく連休取ってないんだっけ?」
「いや、こないだ姉ちゃんの結婚式のときに連休取りました。でも連休なんて何回あってもいいじゃないですか!」
「あ〜…ハワイか!」
「そう、ハワイ!最高だった〜」
「…休むのも仕事のうちだからな。」
「そうそう」
「そういや俺、パスポート申請したんだよね」
「え?なんで?どこいくの?」
「秘密」
「ひどいなぁ、声かけてよ!…え?誰かと行くの?」
「…いや、別に誰とどこに行くって決めてないんだけど、来月の連休どっかに行ってみよっかなって。」
来月の何日?と聞かれ、連休の予定を答えると、
「予定入ってるし!最悪!」と、大騒ぎしている。
「…で、どこに行くんですか?」
「やー、まだ決めてないけど、涼が香港行ってたのに触発されたから、香港が第一候補かな?」
◇
涼side
佐々木先生と事務の小林さんが何か楽しそうに話している。それを横目にコーヒーをいれようかと立ち上がる。
今朝、隼人を見送ったあと合鍵で戸締りをして一度自分の部屋に帰ってから出勤の支度をした。
シャワーを浴びると、昨日の夜に拭き取りきれなかったよごれが残っていた。
キスや、隼人の必死そうな表情や、息遣い、汗、体液…「ほんとにあったこと」でいいんだよなと、どこか現実味がない。
自分にこんな才能?があるとは思ってもなかったが、自然と俺の方が隼人を受け入れる側なんだろうなとすんなりとそう思える。
「桐谷先生、もうすぐでクリスマスですね!」
事務の小林さんに話しかけられる。
「そうですね、…なんか2人ともご機嫌ですね」
「そうですか?!やっぱそうですかね?!実は彼氏とクルーザーディナーに行くんですよー!!!」
「へー…」
佐々木先生がため息をつく。
「へーって。桐谷先生、もうちょっと反応してあげなよ〜」
「そんなこと言われてもなぁ」
クリスマスかぁ。
…街からそんな雰囲気を感じてはいたものの、スケジュールとしては完全に眼中になかった。
…隼人はクリスマスだからってなにかするんだろうか。そんなタイプにも見えないけど…。
「先生?」
小林さんに話しかけられる。
「はい」
「…彼女となにも約束できてなかったって顔してますけど、大丈夫ですか…???」
「小林さん、誘導尋問には引っかかりませんよ。」
◾️12/23 火曜日
◇
隼人side
「今日ジム行きません?」
夜勤明け、いつものように翼にジムに誘われた。
おう、と言いかけて一瞬考え直す。
涼は顧問先と会食で何時になるかわからないと言ってたな。
「おう、おっけー」
「…じゃあいつもの時間に。おつかれっしたー」
「おつかれー」
帰り道、珍しく考え事をする。
涼のことが好きなだけであって、あいつが男だから好きだということではない。でも事実男である涼に対して欲情し、男同士を知った今、俺と翼が2人で会うのってどうなの。
これってよくいう男女の友情が成立するのか?みたいな話なのかな。
ま、翼側になんの気持ちもなくて俺にもなんの気持ちもないわけだから、同性も異性もねーか。
「性別とかの前にかわいい後輩でしかないもんな…」
ただ、勘のいい翼にいつかなにか聞かれる可能性はあるだろう。そんな時はどう答えたらいいんだろうか。
始まったばかりの関係をズケズケと涼に断りもなく勝手に言いふらすのもセンスがない。
嘘、下手なんだよなぁ…
◇
翼side
アプリで出会った1番イケメンで1番当たり障りのない海と書いてカイと読むこの男と3回目のホテル。我ながら、夜勤明けの昼間からよくこんなに遊べるよな、と思うけど。
「絶対なんか変わったんだよねー態度?雰囲気?」
「…つーくんのすきなひと?」
「そう」
「じゃあもう俺にしとけばいいんじゃない?」
「ゲイはやなの」
「ひどい…翼のこと結構本気なのにー」
「誰にでもゆってんでしょ」
「自分のこと棚に上げすぎ!笑」
「はー、でも女できたらすぐ言ってきそうなのに、なんかおかしいんだよなぁ…」
「…男だったりして」
「まじ?」
「…じょーだんよ。」
「カイー。早くえっちしよ。」
◾️12/24 水曜日
◇
涼side
年明けに法改正の施行があるせいで、顧問先からの問い合わせが多い。どこも仕事納めの直前で今日が山場だとは思うが…。メールを返して訴訟対応の資料に目を通しているともう17時半だ。
連日の会食のせいもあるのか疲労がピークに来そうだが、今日と明日はぴたりと空気が止まったかのようにスケジュールが空いている。
おかげで明日は隼人に会えるけど。
小林さんがそそくさと帰り支度をしている。
「では…デート行ってきまーす!!」
佐々木先生が手を振る。
「いってらっしゃーい、よいクリスマスイブを〜」
…なるほど。
今日と明日だけぽかんとスケジュールが空いているが、これはさすがにクリスマスは…という配慮ということか。
今日は隼人も当番の日で、このあと特に予定もない。
久々に早く帰って、帰り道に柄でもないケーキでも買って帰ろうか。
◇
翼side
20時。
面倒な事務作業の時間が終わり、隼人さんも休憩をとるみたいだから、俺も後を追って休憩室に続く。
「おつかれっす」
「おつかれ」
隼人さんが立ち上がって販売機の前で腕を組んでこっちを見てくる。
「何飲む?」
「じゃあ、カフェオレで」
「これだっけ?」と確認してカフェオレを買い、手渡してくれる。
「あざす!」
「クリスマスってことは、イコール年末ってことだからな〜」
「働いちゃうんですよねー俺たちは」
「まぁねー」
「イブに働いてる可哀想な先輩…寂しいんなら俺が相手しましょうか?」
ふざけモードで腕をくんで顔を見上げると目が合ったが、すぐに逸らされた。隼人さんが目を逸らすことに違和感を感じる。
なんだか耐えられない。
「隼人さん、俺のこと抱いてくれないんですね…」
「なんでそうなるの。笑」
「…やだー本気にするなんて、セクハラで訴えますよ」
知らなくていいなら、知らないままがいいかな。
◾️12/25 木曜日
◇
隼人side
夜勤明け。
涼に教えてもらった映画「Call Me By Your Name」を見た。
主人公とオリバーが草むらに寝そべり、まだ何の気持ちも伝え合っていないが、お互いの気持ちを試すようにキスをするシーンに胸を打たれた。
早く涼に会いたくなった。
行くか引き返すか、誰しもどんな時でも人生はその繰り返しだけど、俺はどんな時も行く側を選ぶ。
それが、涼の人生の邪魔をしていないのか不安になろうとも。
「…たしかにオリバーかっこいいな…」
涼から電話が鳴る。
『今から電車乗るから』
「うん」
『ケーキ買ってあるから、今日は俺んとこ集合しよう』
◾️12/26 金曜日
◇
涼side
仕事納めの日、幸せそうな小林さんがプロポーズされた、と言う話を聞かせてくれた。
幸せの絶頂のような表情は見ているだけで癒されて、素敵な家庭を築いて欲しいなと心の底から思った。
◇
年末にゆらゆらと立ち上がる雑務や雑念やその他諸々全ての心の荷物は、新年を迎えるとなぜかすっきりとすることを俺たち大人は知っている。
年末だな、と思う。
今年もあっという間に終わったな。
12話 おわり。
ともだちにシェアしよう!

