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第4話 偽物と本物。(1)

俺が海賊の一員になったのは憧れからだった。 十も変わらない歳なのに、海賊船のキャプテンとして伝説化していた、あの人を直接見てみたい。 そんな訳で俺は海賊になることを決意していた。 俺のあこがれの人は顔に大きな傷がある、ガタイがいい、懐が深い、気前がいい、戦いに強い、器がデカい、男前。 そして漢の中の漢。 海賊船ブラックシャーク号のキャプテン・セシルの噂を耳にしない日はないくらい、港は活気に満ちていた。 その噂がいつからかそのキャプテン・セシルが港を襲った、商人を騙した、一般人を殺した、そんな噂も広まっていた。 最初に聞いたときと180度違うキャプテン・セシルの話になっていて、俺はその噂が本当なのか確かめるために、ブラックシャーク号が停泊しているという港に着いた。 その港に停泊していた海賊船は大きくて、これがブラックシャーク号か、と半ば田舎者状態で俺は船を眺めていた。 丁度そのときに、俺と歳が近そうな青年に声をかけられた。 「あんたはこのブラックシャーク号に乗船している海賊か?」 顔の半分を長い髪とストールで隠している、美青年だった。 綺麗な人だなと、一瞬見とれていたけれど、質問をされていたんだった。 「いや、俺はまだ海賊じゃないです。海賊志望っていうか、キャプテン・セシルのブラックシャーク号の海賊になりなくてここに来ました」 「俺もだ。この船のキャプテン・セシルの手下になりたくて、この港に来たんだ」 とても透き通るような、響く声色に俺は心臓が高鳴った。 容姿も良きゃ、声色も良い。 こんなにも完璧な美青年が海賊志願なんて、世の中凄いなと思った。 それたら船の甲板にいた海賊達に声を掛けて、腕っぷしを見せて、その美青年と俺はそのブラックシャーク号に乗ることが出来るようになった。 「俺はレイズナー、あんたは?」 「セシルだ」 「それ本名なんですか?……ヤバイ名前だな。あんた他の奴には名乗らない方が良いかもしれない」 その日ブラックシャーク号は港を襲った。 しかし、そこに停泊していたブラックシャーク号の倍以上ある海賊船が助けに入り、港は守られた。 その大きすぎる海賊船が本物のブラックシャーク号で、港を襲ったキャプテン・セシルは偽物だった。 本物のキャプテン・セシルは俺が一目惚れしたほうのセシルだった。

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