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第5話 偽物と本物。(2)
「傷跡にキスとか、お前随分と悪趣味な奴だな」
右目に掛かる大きな傷跡に、右目にキスをした俺から逃れて、セシルは服装を整えていた。
「あんたのこの傷跡を見るたびに、その顔に傷をつけた奴を憎く思えます」
そしてこんな傷を負うくらいの凄腕になる前のセシルを想像し、愛しく思う。
噂のキャプテン・セシルは温厚で、美青年、そして思っていたよりも華奢だった。
そんなにも細い身体で、よくもまあ戦えるものだ。
無駄に胸筋はあるけれど。
「だいたい俺を抱くとかな、悪趣味にも程がある。……お前の趣味を疑うぞ」
「あんたは俺の褒美に文句をつけるんですか、セシル。俺があんたのシャドウになったら、好きにしていいという提案をのんだじゃないですか」
「それはこの砂時計の砂が落ちきるまでの間だけだって言ってるだろう!!」
その大きめの砂時計の砂は落ちきっている。
だから、セシルは今俺のセシルじゃない。
今は敬愛し憧れている、ブラックシャーク号の大海賊キャプテン・セシルだ。
「さっさと俺のベッドから出て服を整えろ、レイズナー」
「一昨日の港、初めてあんたと会った港だ。あんたは覚えていますか?」
「随分と軽装な海賊志願者だったからな。偽のブラックシャーク号の俺の偽者の俺に尻尾振ってたし、あれは笑えよたなぁ」
あのときに声を掛けてきたセシルは何年前だろうか。
セシルの美貌はその頃と変わらない。
俺は枕元にある砂時計を引っくり返した。
「おい、レイズナー」
セシルの腕を引いて、ベッドに引き寄せた。
「好きです、あんたが好きなんです。セシル」
一度も触れたことのない、砂時計に触れた手が熱い気がした。
そしてその手で、セシルの身体に再び火を灯した。
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