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第9話 海に投げ入れたブランデー瓶。(3)
セシルは自室へ戻ると、ベッドに先客が寝ていた。
寝ているのはレイズナーだった。
「……おら、邪魔だ。起きろレイズナー」
セシルはレイズナーの大きめの身体をベッドから引きずり出したが、 瞬間レイズナーの身体はセシルの身体に覆い被さった。
「いい加減俺を振り回すのはやめてください、セシル」
「おまえっ!!……狸寝入りかよ」
セシルのシャドウをやっているだけあって、レイズナーもまた綺麗な顔をしている。
そんな美形が自分を押し倒してる。
そして自分に覆い被さる男が、次に何が何をしたいかを知っているセシルの身体にゾクゾクと快感への期待が走った。
「俺が想うあんたへの感情は恋じゃない、愛だ。知ってますよね、セシル」
「そんなの、俺は頼んでねぇし」
「そうですよ、俺が一方的にあんたを愛してるだけです」
レイズナーの手が服の上からセシルの身体を這うと、耳元で囁かれた。
「……砂時計を人前で引っくり返したい、そんな気分です」
セシルからの愛がほしいとは言わないし、言う資格なんてないと思っていたレイズナーだが、今は簡単な愛でもいい、言葉だけでいいから欲しかった。
「お前はガキだな、レイズナー」
「……あんたから見たら、俺は子供ですね」
「俺がお前に振り回されてる気分だぜ」
セシルは枕元にありる砂時計に手を伸ばそうとしたが、止めてレイズナーの頭を抱いてベッドに転がった。
「セシル、今俺はあんたを抱きたい」
「鎮めろ。俺はお前の慰みものになる気はねぇよ」
そのままセシルは目を閉じた。
「……」
「いいから、今日は俺の抱き枕になってろ」
セシルの腕の中でレイズナーは大海賊の心臓の音を聴いた。
その鼓動は逞しく、そして穏やかな海のように落ち着いていた。
結局自分はセシルに慰められている、レイズナーはそのことに気付き、自然と身体の力が抜けるのを感じた。
セシルの言うとおり、自分は子供だ。
自分のものを盗られると思い込んで、ヤキモチを妬き、そして駄々をこねた。
そんな自分が情けなくなり、セシルの腕の中で目を閉じた。
セシルは誰のものでもない、セシルはセシルなのだ。
きっとセシルは恋をしたとしても、彼自身は変わらないだろう、レイズナーはそう思った。
「セシル、やっぱり俺はあんたが好きです。」
「……そうかよ」
「あんたが俺をどう思ってるか分からないけど、俺はあんたに必要とさたいです。それだけはどうか理解してください」
「本当に手の掛かる弟分だ。俺にとって、お前は大切な仲間以上だと思ってる。それくらい理解しろよな……」
どうやらセシルは眠ってしまったらしい。
やはりセシルには勝てない、レイズナーは思った。
こんなに厄介な自分すら受け止めてくれる、懐の広い男だ。
だからこそ自分はよりセシルに惹かれたのだ、そう感じた。
「俺にはあんただけです、セシル。……あんたはこんな俺はきっと分かってないですよね」
そして、セシルへの想いが更に深まっていく。
いつかこの気持ちが伝わればいいのに、そう思いながらレイズナーも目を閉じ眠りについた。
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