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第12話 苦悩が似合わない男。(2)

よりにもよってこんな時に見付けてしまうなんて、セシルはまだ遠い位置にいるため、見付からないように歩いてきた道を引き返し始めた。 会いたい相手ではあるが、今ここで会うことは避けたい相手だった。 「そこに誰かいるのか」 ウィリアムズの声がセシルを呼び止めた。 このまま帰るわけにも行かず、セシルは声色を変えてウィリアムズと話し始めた。 「俺は海賊です。……こんなことろで海軍に会うわけにはいかない」 「そうだな。だが今私は非番なのだ、海賊一人捕らえたとて何になる?」 「……」 「それに今私は丸腰だ。逆に襲われでもしたら、仲間に示しがつかない。そうだろう?」 どうやらウィリアムズは相手がセシルだとは気付いていない様子だった。 「海賊よ、お前は何故この砂浜にいる。考え事か」 ウィリアムズは距離を縮めず話し掛けていた。 「……よくわかりますね」 「自由に生きる海賊でも、悩みなどあるのだな。私に話してみるか?少しは軽くなるやもしれないぞ」 まさかウィリアムズに悩みを話すことになるとは思わなかったセシルだが、頭の回るウィリアムズの助言が今聞くことが出来る、そう考えるとセシルは無意識に言葉を紡いでいた。 「可愛いと思っていた弟分が、この俺に嫉妬してきたんです。……少し女のことを呟いただけだったのに、あいつはガキみたいに俺の寝床で甘えてきやがった」 言ってしまった時に気付いた、俺がその弟分(レイズナー)がベッドで俺を待っていたことを。 男が男の寝床で待っていたなどと話されたら、ウィリアムズは軽蔑するだろう、そう思っていた。 けれどウィリアムズは軽蔑することはなく話していた。 「お前はその弟分に愛されているのだな。そしてお前もその弟分がまだ可愛いと思っている。ならば関係は変わらないと私は思うが」 まあ、確かに関係は変わらないだろう。 「お前はそのままその弟分を変わらずに可愛がればいいだけのとこだ。後悔のないように接してやればいい」 まさか今更お前に諭されるとはな、心の中でセシルは思った。 するとウィリアムズはセシルに聞いてきた。 「今度はこちらが質問する番だ。……海賊よ、何故お前は海賊になったのだ」 ウィリアムズの言葉は籠ったような声だった。 「私の友は海賊になってしまった。……その友を助けるべく私は海軍に入隊した。何故お前は海賊になった?残された者の身を考えたことはあるのか?」 セシルのことを思ってウィリアムズは海軍提督になった、そう彼は言っている。 何故お前は俺のためにそんなことをするんだ、と返事をしそうになるのを堪えた。 「それに私は彼にとんでもないことをした。……もしも会えるのならお前に心から謝りたいのだ」 決闘で負傷したセシルの右目と右腕のことをウィリアムズは悔いているのだろう。 今となってはこの傷は受けるに等しい罰だと思っているのに。 「俺が海賊になった理由は、海が好きだからです。……あんたの親友はどうか分からないですが、海賊はみんな海を愛しています」 セシルはそう言うと、砂浜から見える大きな海を見た。 「あんたの親友も、きっと海が好きだから自由な海賊になったんだと思いますよ」 そう言ってセシルは一礼をしてから小舟に戻り、ブラックシャーク号に帰った。 「私も好きだと言ったらお前は笑うだろうか?その弟分と同じようにお前が好きだ、セシル」

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