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第17話 シロツメクサ。(1)
「今日もお勤めご苦労さん」
セシルは無事に自分のシャドウ(影武者)の任務を遂行したレイズナーに、労いの言葉をかけた。
「セシルもお疲れ様です」
最近セシルはレイズナーと行動を共にしていた。
口煩いレディ・シルビーは別の案件で下船している為、ある意味でセシルは今とても生き生きしていた。
きっとこのことが彼女にバレることがあったら『誰のために言っていると思っていると思っているの?!』と口煩く怒ることだろう。
シルビーの行動は全てセシルの為にしていることなのに、セシルにはそのことが伝わっていないのだ。
誰がどう見てもシルビーはセシルに惚れているのが分かっても、セシルはなにも気づくことがない。
無頓着で鈍感というべきか。
自分が誰かに馳せることはあっても、セシルに想いを馳せる人物が存在していることに気が付かないほどに鈍感なのだ。
だいたいレイズナーがセシルのシャドウになったときも褒美に下心が働いて引き受けた。
レイズナーが『好きです』と言葉にしなかったら、今もセシルはただの負い目として感じていたに違いなかった。
シルビー不在の今二人になれた義兄弟達は、各々の部屋に退散する予定だった。
しかしその日もレイズナーはセシルの後ろにぴったりくっついてきた。
「レイズナー、いい加減にしろよ。……お前は盛りのついた野獣かっ?!」
「いえ、セシルに渡したいものがあって」
レイズナーは今すぐ褒美を貰いたいと付いてきたわけではなかったのだ。
自分は自意識過剰だったとセシルは少しだけ羞恥心を感じていたが、レイズナーはそんな格好悪いセシルが可愛いと思い、笑った。
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