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第18話 シロツメクサ。(2)
「おいっ、……それ以上笑うな。で、渡したいものってなんだよ?」
「部屋に入ったら渡します」
人に見られたくないのか、それとも人に見られると困るものでも渡す気なのか。
それが気になるセシルはレイズナーを部屋に入れて、それから鍵を掛けた。
「なんだ、渡したいものって」
「先日港の花屋で見掛けて買ったんです。これをどうしてもあんたに渡したいと思って」
レイズナーは胸の内ポケットから、ドライフラワーのシロツメクサの花一本と葉を数本束になっているものを渡してきた。
「普通海賊が花屋なんて行くか?しかもシロツメクサなんてそこら中生えてる草だろ」
「ちょうどドライフラワーになっているこれを窓辺に飾ってあったのが見えて、どうしてもあんたに渡したいって思った。あんたはほぼ丘に下りないし、探すことは出来ないでしょう?」
そのシロツメクサの葉は四つ葉が一本混じっていた。
シロツメクサの葉はクローバーなのだ。
四つ葉のクローバーは幸運の証。
「レイズナー、俺は女じゃない。花を贈るなら女にしろ」
「あんたが女だったら、俺はきっと義兄弟にはならなかったでしょうし、あんたもこんな海賊にならなかった。出会うこともなかったあんたと俺だから、きっとこの花を贈ることもなかった。……今日も俺だけ出向けば済むことでした」
レイズナーの言いたいことは分かる、彼は自分をもう少し大事にしろと言っているのだ。
無鉄砲なセシルに少しでも災いが無いことを、いつも願っているレイズナーらしい贈り物でもあるからこそ、受けとることに躊躇していた。
「……俺はお前が持っているべきだと思うけどよ?」
咄嗟にセシルの口から出た言葉だったが、その言葉は的を得ていた。
最近の行動はセシルの影武者であるレイズナーが筆頭なのだ。
「それでも俺はあんたに持っていてもらいたいと思ってます」
レイズナーは譲らなかった。
真っ直ぐにセシルを見て言う彼の瞳が純粋に輝いていて。
気が付いたら、セシルはレイズナーからそのシロツメクサの小さな花束を持たされていた。
「あぁ、もう。……分かったよ」
セシルはその束を胸の内ポケットに仕舞った。
「これでいいんだろ」
レイズナーは嬉しそうに笑顔になった。
「俺と同じように、それはあんたをきっと護ります」
そう言ってレイズナーは大人しく自室に戻って行った。
「……あいつ、本当にこれを渡したかっただけかのかよ」
肩透かしを食らったようなセシルの身体には、一気に疲れを感じていた。
「こんなものを渡すよりも、まだシテたほうが俺等しいじゃねぇか」
などと呟いて、ベッドにダイブした。
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