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第29話 大海原の片隅で。(1)
海軍敷地内の、提督ウィリアムズの様子が最近おかしかった。
提督のウィリアムズは稀にもみない鬼人提督と恐れられていた。
士官でも彼と対峙できる者など存在しない為、気付ける者はいなかった。
ただ一人を除いては……。
ウィリアムズから士官候補生として教育を受けているカインは時折上の空の彼に気付いていた。
休日以外の任務のときはいつも一緒に行動をしていたカインだからこそ気付けたのかもしれない。
教えの通りに書類を書いていたカインの斜め横のデスクで、ウィリアムズは軽く溜め息を吐いた。
カインはウィリアムズに『一体どうされたのですか』と聞こうと思ったが、その言葉を飲み込んだ。
提督のことだ、とてつもない難題を考えてるのだろうと思ったのだ。
そんな難題の意見など自分には思いつかないだろう、カインはウィリアムズを気にしながら書類にも集中した。
しかしそのウィリアムズが考えていたことは、数日前の夜中、幼馴染み兼永遠の宿敵大海賊キャプテン・セシルを、この腕の中で抱いたことを考えて思いにふけっていた。
「……」
幼い頃友だった宿敵キャプテン・セシルが、出会った瞬間から思いを馳せていた相手を己の手で乱れせるこのが、とても官能的で。
その愛するセシルを己が抱けて、とても幸せな一晩だった。
乱れる艶やかなセシルを思い出すと、溜め息を吐かずにはいられなかったウィリアムズなのだ。
恋い焦がれていた相手は、自分から傷を受けていて。
それなのに受け入れてくれるのだ。
心にも傷を受けただろうセシルをなんとか助けてやりたい、ウィリアムズは未だ少年の頃と想いは変わっていなかった。
そしてセシルも変わってなかったことを嬉しく思っていたウィリアムズに、まさかそんなことを考えてるとは思いもしないカインであった。
『セシルは今何をしているだろう』そう思ったウィリアムズは部屋の窓から見える海を見つめた。
「……どうかされたのですか?」
カインのその言葉にウィリアムズはこう答えていた。
「少し船で出るか、カイン」
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