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残るαの感触と、止まらない鼓動

side 律 自分の部屋に戻って、ベッドに倒れ込んだ。 「……はぁ」 大きく息を吐く。心臓が、うるさい。 冬馬に、キスされた。 抱きしめられた。 「……っ」 枕に顔を押し付ける。 別に何とも思ってない。 ただの、起こすための手段だ。 意味なんてない。 ――嘘だ。 “Ωには効くと思ったけど” なんて言いながら笑う冬馬の顔と、あの、唇の感触。 「……くそ」 小さく呟く。 冬馬のαの香りが、まだ身体に残ってる気がする。 甘くて、強くて、安心する香り。 “俺が律をしっかり教育してやるから” そう言って、俺を見つめる冬馬。 真剣で、優しくて、でもちょっと意地悪で。 「……ダメだ」 頭を振る。 考えれば考えるほど、冬馬のことばかり浮かんでくる。 これから、どうなるんだろう。 冬馬と、毎日過ごす。 毎日、顔を合わせる。 「律、夕飯できたぞー」 誠さんの声が聞こえた。 「……はい」 ベッドから起き上がって、鏡を見る。 顔、少し赤い。 「……大丈夫」 髪を整えて、服を直して、深呼吸する。 「よし……」 そう呟いて、部屋を出た。 リビングに向かう廊下で、冬馬とばったり会った。 「あ……」 「おう、律。飯だぞ」 「……ああ」 目が合う。 さっきのことを思い出して――視線を逸らす。 「どうした?」 冬馬が、不思議そうに首を傾げる。 「……別に」 「ふふっ、何その態度」 「……何がおかしいんだよ」 「いや、お前、わかりやすいなって」 「わかりやすくない」 先にリビングに向かう。 後ろから、冬馬の笑い声が聞こえた。 「律、顔真っ赤だぞ」 「……赤くない」 むかつく。 でも――嫌じゃない。 そんな自分が、よくわからない。 リビングに着くと、テーブルに料理が並んでいた。 「おお、豪華だな」 後ろから来た冬馬が感心する。 「……すごいね」 「ああ、冬馬の歓迎も兼ねてな」 誠さんが笑う。 「いただきます」 三人で手を合わせる。 料理を食べながら、誠さんが話しかけてくる。 「律、冬馬の指導はどうだった?」 「……まあまあ」 「そうか。冬馬、厳しくしすぎるなよ」 「わかってるって」 そう言って、冬馬が俺の頭を撫でた。 「……っ」 ドキッとする。 「……何してんの」 「よく頑張ったなって」 優しく言われたから、そっぽを向いて答える。 「……別に、普通」 「素直じゃないな」 冬馬が笑う。 「律、明日から本格的に始めるからな」 「……わかった」 「朝は七時起きだ」 「……七時?」 「当たり前だろ。朝比奈家の跡取りは、規則正しい生活が基本だ」 冬馬が当然のように言う。 「……無理」 「無理じゃない。俺が毎朝起こしに行ってやるから」 ニヤリと笑う冬馬。 「……部屋に入ってくるのかよ」 「当然。律、朝弱そうだしな」 「弱くないし」 「じゃあ、一人で起きられるんだな?」 意地悪そうに聞かれる。 「……起きられる」 「本当か?」 「……たぶん」 小さく呟くと、冬馬が楽しそうに笑った。 「律が可愛く『おはよう』って言ってくれたら優しく起こしてやるよ」 またからかうように言われる。 「……別に、優しくなくていい」 「そうか?」 むすっとすると、冬馬がますます楽しそうに笑った。 「怒るなよ。律の反応が可愛いから、ついいじめたくなんだよ」 「……可愛くない」 「可愛い」 「可愛くない」 「可愛い」 「……もう知らない」 そっぽを向く。 冬馬と誠さんが笑った。 「冬馬、律をからかいすぎるなよ」 「大丈夫、すぐ慣れる」 誠さんが笑う。 「頑張ってな、律」 「……うん」 そう答えると、冬馬が満足そうに笑った。 冬馬も、誠さんも、俺のことを気にかけてくれてる。 家族みたいで温かい。 そんなことを思いながら、夕食を食べ続けた。 食事が終わって、部屋に戻る。 ベッドに座って窓の外を見ると、庭のバラが月明かりに照らされている。 「……綺麗」 明日から、本格的に始まる。 冬馬との生活。 「……まあ、悪くないか」 そう呟いて、ベッドに横になった。

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