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第15話 理性ごと、引き寄せられていく

side 朝比奈 律 その日は、朝から身体の調子がおかしかった。 部屋の空気が、いつもより重く感じた。 喉の奥が熱くて、呼吸するたびに胸が苦しい。 寒くもないのに、震えが止まらない。 「……っ、……」 ――ヒートだ。 前回よりも、症状が重い。 抑制剤は飲んだのに効かない。 身体が、熱い。頭がぼんやりする。 「……っ」 冬馬の匂いが欲しい。 冬馬に、触れたい。 理性が、どんどん溶けていく。 「……冬馬」 冬馬が貸してくれたジャケット。 αの……冬馬の香り。 身体の熱をジャケットに押し付ける。 直接ではないけれど、布越しのαの香りが呼吸を整えてくれる。 それだけで少し落ち着くのが、腹立たしい。 でも、身体の火照りは治まらない。 「……暑い」 着ている服が、肌に張り付いて不快だ。 服を脱ぐと肌に触れる空気が少し冷たくて、でも熱はすぐに戻ってくる。 ベッドに倒れ込んで、冬馬のジャケットを抱きしめる。 「……冬馬」 冬馬の香り。 安心する。でも、もっと欲しい。 本物の、冬馬が欲しい。 冬馬がそばにいたときの方が……呼吸が、楽だった。 目を閉じると、冬馬の声が浮かぶ。 “律、大丈夫か?” 思い出しただけで、胸が跳ねる。 ヒートだからだ……そう言い聞かせる。 それでも―― 「……冬馬……」 掠れた声で名前を呼ぶ。 「……たすけて」 身体は正直だ。 熱くて、苦しくて。 コンコン。 「律」 冬馬の声。 「あ……」 返事をしようとするけど、声が出ない。 掠れた声で名前を呼ぼうとする。 ドアが開いた。 「……律」 冬馬の視線が、俺を捉える。 毛布とクッションに埋まり、冬馬のジャケットを抱きしめている、裸の俺。 冬馬がベッドの横にしゃがむ。 その匂いに包まれた瞬間、頭の奥まで痺れた。 「冬馬の……これ」 抱きしめているジャケットを見せる。 「俺の匂い、落ち着くか?」 「……うん」 正直に答えると、冬馬の表情が複雑に歪んだ。 触れたい。 でも、触れたら戻れなくなる。 それをわかっていながら、手が勝手に動いていた。 「冬馬……」 腕を伸ばした。 触れた指先から、彼の体温が伝わる。 俺の髪を撫でる冬馬の手が、少し震えている。 「冬馬……」 「ん」 「……熱い」 冬馬が、俺の額に手を当てる。 「熱いな」 心配そうな顔。でも、その瞳の奥に、何か別の色が混ざっている。 「律」 「……なに」 「……俺が、そばにいた方がいいか?」 冬馬の声が、少し掠れている。 「……いて、ほしい」 小さく答えると、冬馬が苦しそうに目を閉じた。 「……わかった。でも、律」 「ん……」 「俺も……αだから」 冬馬が何を言おうとしているのか、わかる。 でも、もう頭が働かない。 「……しってる」 そう言って、冬馬のシャツを強く掴んだ。 冬馬が、ベッドに上がってくる。 苦しそうに息を吐く俺を、冬馬は抱き寄せた。 「……っ」 冬馬の体温。香り。鼓動。 全部が、俺を包み込む。 肌と肌のあいだの距離がなくなり、熱が混ざった。 たったそれだけで、心臓が悲鳴を上げた。 「っ……律」 冬馬の声が震えている。 優しく背中を撫でられると、少し落ち着いた。 でも、身体の火照りは治まらない。 むしろ――冬馬の全てが、俺のΩをもっと刺激する。 「冬馬……」 上目遣いに見つめると、冬馬が息を呑んだ。 「だめだ、律。そんな顔すんな……」 かすれた声。 普段の冬馬なら絶対見せない、危うい色が混じっている。 「……本気で我慢、きかなくなる」 胸がきゅっと熱くなり、思わず指先が冬馬の服をつまんだ。 「……冬馬」 呼ぶだけで、冬馬の喉がまた鳴る。 「……触って」 そう言った瞬間、冬馬の瞳が大きく揺れた。

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