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第24話 つがいの印と危険なα

それから数日。 冬馬は、ずっと俺のそばにいた。 朝、目を覚ますと―― 「おはよう、律」 冬馬が、普通に隣で寝ていた。 「っ……! な、何で俺の部屋にいるんだよ」 「夜中にお前の泣き声が聞こえた。ほっとけるわけないだろ」 淡々と言われ、胸がちくりとする。 「……泣いてたなんて覚えてない」 「相当うなされてたぞ。来たら、お前がしがみついてきて離れなかった」 「……っ、そんなわけないだろ」 「本当だって」 冬馬が少し苦笑した。 その優しさがむずがゆくて、顔が熱くなる。 「……知らない」 「寝てる時は素直だな」 わざとらしく言うな。 でも、冬馬がそばにいてくれたことは――悔しいけど安心した。 それからの日々は穏やかだった。 朝は冬馬に起こされ、昼は一緒に勉強して、気づけば夜も隣にいて。 そんな毎日が、当たり前になりつつあった頃。 「律、今日は外に出るな」 冬馬が、いつになく真剣な声で言った。 「……なんで」 「城崎がまだ動いてる。お前を攫う計画があると情報が入った」 「は……? 冗談だろ……」 「冗談じゃない」 冬馬の目は、本気だった。 その目を見た瞬間、体がすっと冷える。 「外出は控えろ。俺がずっとそばにいる」 「……わかった」 素直にうなずいてしまう。 冬馬がいないと、不安が一気に押し寄せる。 「律」 冬馬が抱き寄せてくれる。 あたたかくて、安心して、呼吸がゆっくりになる。 「絶対に守るから」 「……うん」 冬馬の腕の中は、本当に安全な気がした。 ――そして午後。 庭のバラを眺めていた。 冬馬は書斎に行っていて「すぐ戻る」と言っていた。 「……綺麗だな。冬馬にも見せたいのに」 そんな独り言を言った時だった。 「やあ、律さん」 背後から声。 振り返ると――翔太が立っていた。 「っ……! なんで……ここに」 「会いに来たんだよ」 笑みが、ぞくりとするほど冷たい。 「帰れ」 「帰らない。お前を連れて行く」 逃げようとした瞬間、腕を強く掴まれた。 「離せ!」 爪が食い込むほどの力。痛い。 「大人しくしろ。律は俺のものだ」 吐き捨てるような声に背筋が震えた。 「俺は冬馬のつがいだ!」 「関係ない。印なんて上書きできる」 首筋に顔を寄せられた瞬間、吐き気がするほどの恐怖が走る。 「やめろ!」 必死に抵抗するのに、身体が強張って動かない。 濃いαのフェロモンが、全身を締めつける。 「今度こそ、俺のものにする」 翔太が手で俺の口を塞いだ。 「声を出すな」 耳元で囁かれ、呼吸が詰まる。 「ん……っ」 膝から力が抜けていく。 冬馬……冬馬……! 声に出せないまま、胸の奥だけが必死に叫んでいた。

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